5歳で自閉症と診断され、普通の小学校に入れなかったジョリー・フレミング。後に彼が高校と大学を卒業し、イギリスの名門オックスフォード大学で修士号を得ることになるとは、ジョリー本人ですら考えられないことだった。
ここでは、そんなジョリーがインタビューで語った内容をまとめた『「普通」ってなんなのかな 自閉症の僕が案内するこの世界の歩き方』(リリック・ウィニックとの共著)から一部を抜粋。理解することが難しい他者の感情を、彼はどのように受け止めているのか――。(全2回の1回目/後編を読む)
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人が集まると、どうしてみんな怒りの感情に駆られるのか
ジョリーは会話の中で、相手の表情や身振りをうまく読み取れない。それと同じで、人の感情がどんなふうに表現されるにしろ、それを感じ取って理解することもむずかしいようだ。
だが、感情を理解しようとすることで、群衆はいかにして同じ感情を共有するかという実に興味深い観察をジョリーは試みることになった。どのようにして多くの人が「同じ感情に至る」ことになるのか、その過程に何があるのか、ジョリーは強い関心を持っている。たとえばたくさん人が集まると、どうしてみんな怒りの感情に駆られるのか? それは意識的なのか? それとも無意識というか、本能的に、何も考えることなく憤怒の感情を共有するのか?
ジョリー 僕は人の反応に気づいたり読み取ったりするのがうまくありません。いくつかすぐに感じ取れる感情はあるけど、大体それはネガティブな感情です。傷ついたり、怒ったり、こわがったりすれば、みんなすぐに行動に出ます。それ以外の感情はあまりはっきりしていなくて、反応がすごく遅くなる。
たくさん人が集まると、すぐに全員が同じことを感じるようになる。何か変な感じ。何かが変わった、みんなそれまで怒ってなかったのに、今は怒ってる、みたいに感じるから。僕は全然怒ってないのに、今みんなは怒ってる。だからすごく変な感じ。10秒前と今のあいだに何があった? 僕はそのあいだに起こったことを見落としたのかもしれない。この人だかりの向こうのほうで何かが起こったのかもしれないけど、とにかく今はみんな怒っている。人がいっぱい集まっているからです。どうしてそうなるのか、すごく興味を引かれます。
ある時オックスフォードで大きなデモに参加したことがあります。何が「起こっている」のか見てみたくて、参加したんです。そこにはデモに賛成する人も反対する人もいた。でもなんだかおかしいと思ったのは、どっちの側の人たちも対立してるのに同じ気持ちというか、同じことを感じているように思えたのです。そんなふうにみんなつながっていた。怖かったし、なんだか変だった。
リリック どんなふうに変だった?
ジョリー その気持ちはどこから出てきたの? いつ発生したの? 誰かひとりの人が最初にその感情に駆られた? みんな同時に感情的になるってみんな知ってるのかな? みんな意識的にそれを受け入れた? みんな「僕は怒りたいんだ、だからこれから怒る」みたいな感じ? それとも無意識に怒りの気持ちを持った? 怒りをあおるような人がいた? 状況がよくわかっていたら、怒らずにすんだ?
こんなふうに、群衆と距離を置くことができるかという問題は、よくわからないけど、とても興味を引かれます。