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「強そうに見えて意外に謙虚な人に私は弱かった」 南果歩がたどりついた“自分で自分を幸せにする”の境地

中野信子×南果歩

note

中野 果歩さんはそうですよね。文章も書けるし、女優としても活躍されていて、人の気持ちに入っていく言葉選びや振る舞いがもうできあがっているじゃないですか。誰かを助ける喜びって何にも替え難いものがあります。

 ただ相手の側は、果歩さんのおかげでだんだん立ち直ってくると、自分も助けたいのに果歩さんは何でもできてしまうし、自分にも力があると認めてほしい気持ちが勝ったり、自分で何事もできるものだと思いたくなり始めるのかもしれませんね。

 

 そのとおりです(笑)。友だちがアドバイスしてくれました。私は強そうに見えて意外に謙虚だという人に弱いけれど、困っている人は困っているときだけ謙虚なのであって、いつも謙虚なわけではないって。

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中野 なるほど。謙虚が一時のものなのか、いつもそうなのかということですかね。

 私は学習したの。困っている人ではなくて、今、幸せである人を見つけたほうがいいということを。今幸せだという状態のほうが、謙虚に振る舞う必要もないし、その人本来の姿を見ることができるでしょう。

 たとえば、その人がお金に困っている状態だったら、お金がないわけだから使えるはずもない。本来のその人のお金の使い方も堅実なのかどうかはわからないわけで、金遣いが荒いのかもしれない。お金の使い方というのは、その人の品性を表すから、それを知るのは大事ですよね。

中野 確かにそうですね。深い。

 もうちょっと早くわかっていればよかった(笑)。だから私の今のテーマは「自分で自分を幸せにする」。人に幸せにしてもらおうなんて思っていると、いろいろなことが歪んでくる。まず、自分が幸せになったら他者を幸せにできるのだ!

相手に何かしてあげたいというのは自分の欲

中野 誰だって本来はそんな余裕はない。けど、相手をかわいそう、助けてあげたい、幸せにしたいと思うのは、本当は自分の欲なんですよね。私も人のことは言えないですが、相手に何かしてあげたいという人は、それによって自分が満たされているというか。

 あ、まさに以前の私はそのタイプだったと思うの。困っている人を見捨てられないというのは、何かをやってあげることで、自分が満足しているんですよ。でもそれは健全な関係ではないです。

中野 反省しよう。

 反省した。

中野 果歩さんもお悩み相談をするというより相談を受けたいタイプですよね(笑)。

 でも、こうしてお話ししていると、信子さんが私の状態を分析してくれたり、私が考えていることを理論で裏付けたりしてくれるから、心の本棚が整理される、背表紙がピチーッと揃うようで、気持ちがいいです。

 

※南さんが二度目の離婚に至るまでの精神的に苦しかった頃の話や、2人がアートに熱中する理由、南さんの息子とハーフブラザーの交流など、対談の全文は『週刊文春WOMAN2023春号』に掲載されています。

text: Atsuko Komine photographs:Hirofumi Kamaya

なかののぶこ/1975年東京都生まれ。脳科学者。東日本国際大学特任教授。京都芸術大学客員教授。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程終了。医学博士。2008年から10年、フランス国立研究所ニューロスピンに勤務。著書に『ペルソナ』『脳から見るミュージアム』(ともに講談社現代新書)、『なんで家族を続けるの?』(文春新書)、『人生がうまくいく脳の使い方』(アスコム)など

みなみかほ/1964年兵庫県生まれ。女優。20歳の時に映画『伽耶子のために』のヒロイン役オーディションに合格しデビュー。89年に第32回ブルーリボン助演女優賞、2005年には第19回高崎映画祭最優秀助演女優賞を受賞。2015年『Masterless』でハリウッド映画デビュー。2022年Apple TV+ドラマ『Pachinko パチンコ』出演。主な著書にエッセイ『乙女オバサン』(小学館)、絵本『一生ぶんの だっこ』(講談社)。

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