問題は祖母の認知症が進みつつあることだった。司法書士に相談すると、養子縁組できるだけの意思能力があるかどうかは、要介護度などの数字で判断されるものではなく、個別、具体的に判断されると教えてくれた。また役所へ行って調べ、成人同士の養子縁組は、お互いの意志があれば未成年を養子に迎えるより簡単であることを知った。
「これを知った時点で、祖母とはコミュニケーションが取れていたので、すぐに母親に連絡して上京してもらい、2人で祖母に面会に行きました」(女性)
女性が祖母に話すと理解してくれた様子だったため、施設の職員に事情を話して念のために立ち会ってもらい、無事に養子縁組を結ぶことができた。祖母は、その半年後に明らかに意思能力を喪失した。
「父親の相続手続きを経験していなければ、認知症が進みはじめた祖母を見て、戸籍を確認しようなんて思わなかったでしょう」(女性)
認知症により凍結される資産は215兆円
認知症になればその人の銀行口座は凍結される。
第一生命経済研究所の星野卓也氏は、認知症の人の資産動向を調査し、凍結される資産の額を算出した。
その額は年々増えている。1995年時点では49兆円だったが、2005年には101兆円、2015年には127兆円に上り、2030年には実に215兆円に達する見込みだ。国民の家計の金融資産に占める割合も年々上昇し、2030年には10.4%と1割に達するという。
そもそも家計の金融資産は60歳以上の世帯が6割以上を保有している。高齢者に資産が偏在し、高齢化が進んで認知症が増えれば、巨額の資産が凍結されてしまう。
星野氏が説明する。
「これだけのお金が消費に回ることなく、投資も行われないのは経済成長に大きなマイナスです。何より個人のレベルで、子供や孫が困っていても親がお金を使えないという問題のほうが深刻でしょう。凍結されてしまう前に親が子供や孫に資産を移転すべきですが、相続税に比べて贈与税は税率が高く、なかなか進みません。政府内でもこの問題は度々指摘されていますが、促進策の立案は遅々として進まないのです」