1ページ目から読む
2/5ページ目

 そうした流れの末に、『あまちゃん』があった。歴代の朝ドラや前述2作が挑み、成し遂げてきたことをふまえ、「これまでにない朝ドラ」「これまでにないヒロイン」を打ち出したのが『あまちゃん』ではなかろうか。「朝ドラ3大ビッグバン」の大トリ、総仕上げとして、『あまちゃん』は朝ドラをもっと自由にし、「21世紀を生きる多様な視聴者に向けた新たなエンターテインメント」へと押し上げた。

朝ドラとTwitterを密接に結びつけた

 現在再放送中の『あまちゃん』がそうであるように、朝ドラとTwitterが切っても切れないものになって久しいが、この現象にも「3大ビッグバン」が段階的に影響している。筆者は『ゲゲゲの女房』放送時に初めて「番組名タグ」が付いた朝ドラの「実況」や「感想」を目にした。ただし、2010年当時はまだ日本語ハッシュタグが使用できず、「#gegege」という英字のハッシュタグが使われていた。

 2011年7月にTwitterで日本語ハッシュタグが使えるようになり、その3カ月後に放送開始した『カーネーション』から、Twitterで番組名タグを付けて実況したり、感想や考察を述べる、あるいはファンアートを投稿する視聴者が増え出した。『カーネーション』に関しては、文化人やクリエイターも熱いツイートを投稿しているのをたびたび目にしたものだ。

ADVERTISEMENT

 つまりこの頃から、前世紀まで機能していた「お茶の間」という共同体が、Twitterに取って代わり、家族でも同居者でもない、顔の見えない人たちと朝ドラの楽しさを共有するという「文化」が生まれたのだ。

『カーネーション』で主演を務めた尾野真千子 ©文藝春秋

 そして、その「文化」をさらに広く普及させたのが『あまちゃん』だった。80年代のテレビ、音楽、サブカルチャーを元ネタに、絶妙なセンスでちりばめられた「小ネタ」。キャッチーな台詞の数々。登場人物がボケに回って、テレビの前の視聴者にツッコませる、周到な作劇。これほどTwitterと相性のいい朝ドラはなかったといえる。

「誰もが主人公」群像劇を極めた名作

『あまちゃん』をエポックメイカーと呼ぶに相応しいポイントはたくさんある。前述のように、「小ネタ」のちりばめや「仕掛け」、卓越した「笑い」のセンス。これらがまず第一層に見えてくるが、このドラマの本当の凄みは、その奥にある、実に多層的な作劇だ。