劇団出身の宮藤官九郎が書く朝ドラとあって、これまでの朝ドラにない数の「劇団出身俳優」がキャスティングされ、それがまた、本作の持つ唯一無二の「グルーヴ」につながっていた。さらに、そのうちの多くが東北出身者だ。
先輩海女・弥生役の渡辺えり(山形県出身)、その夫で「ブティック今野」の経営者・あつし役の菅原大吉(宮城県出身)、先輩海女・かつ枝役の木野花(青森県出身)、観光協会長・菅原役の吹越満(青森県出身)、アキが通う高校の教師・磯野役の皆川猿時(福島県出身)。そして、書き手である宮藤官九郎自身も宮城県の出身だ。
この座組みが、岩手県を舞台に、東日本大震災から立ち上がる人々の力強さを描く本作に、とてつもない説得力を与えた。書く人、演じる人に強い「当事者感」があるからこそ、あれほど見る者の心を掴んだのだろう。
真正面から震災と向き合い、復興を後押し
初見の視聴者もおられると思うので、先の展開を詳しく書くことは控えるが、このドラマは「震災」と「その後」の描写が秀逸だ。東日本大震災からわずか2年の時点で、ここまで震災に向き合い、被災地の現実に寄り添い、そして復興の後押しまでやり遂げた作品を、筆者は他に知らない。
「北三陸鉄道」の「お座敷列車」や震災後の鉄道復帰のエピソードは、モデルとなった三陸鉄道の実話を元にしている。ドラマの中でアキがやっていた「海女の衣装を着て車内でウニ丼を売る」というスタイルは元々なかったが、『あまちゃん』の放送を受けて、三陸鉄道の車内でもその販売スタイルに変えたのだという。それが名物のひとつとなり、観光客が増えた。まさに「現実」と「フィクション」が入り混じり、交差し、「Win-Win」の関係性を作った。
放送開始から1カ月が過ぎた13年のゴールデンウィークだけでも、ロケ地である久慈市小袖海岸には、年間数の2倍もの観光客が訪れた。その後も『あまちゃん』効果は続き、震災で落ち込んだ市の観光収入はV字回復したという。アキとユイ(橋本愛)の存在が「北三陸」に莫大な経済効果をもたらしたのと同じことが、現実でも起こったのだ。