三宅 ご存じの通り、3Dはものすごい人数のアーティストと時間が必要だった領域ですからね。まず大きく変わっていくのはインディーズの世界だと予想します。ローコスト、少人数でコンセプチュアルなゲームを作っているインディーズのチームが、人海戦術が必要だった大量のリソースの作り込みを、AIを導入することで実現できるようになるわけです。
「80点のものを100点にする」のは人間の仕事
――インディーズでも、広大なオープンワールドのゲームを作れるようになるということですね。ではビッグタイトルについてはどうでしょう。大量のクリエーターを抱え、物量作戦にも耐えうる大手メーカーにはそれほど恩恵はないということでしょうか。
三宅 ハイエンドゲームの制作は、コストよりあくまでもクオリティー重視です。生成ツールで80点のものまでは作ることができるようになります。インディーズならそれで十分かもしれません。ただしAAAタイトルの制作現場では、95点をどう98点、99点に持っていくかというレベルのせめぎあいを日々行っています。生成ツールが作ったものをそのまま使うということはないでしょうね。ただ、AIに作らせた80点のものを、人間のアーティストがブラッシュアップして95点以上に仕上げていく、という作業プロセスは一般化すると思います。
――AIと人間の共同作業ですね。
三宅 例えばカマキリが巨大化したようなモンスターと指定すれば、AIならその候補を一瞬で100種類作ることもできます。そのまま使うことはなくても、それだけでも大きな省力化になります。今までは特徴に合致した動物の形状をリサーチしたり、試行錯誤しながら大量にスケッチを描いたりしていたわけですから。
これからはその先、その100体の中から選んだり、組み合わせたり、ブラッシュアップしたりする、つまり最もクリエイティブな作業に労力を集中することができるわけです。そしてある程度方向が定まってきたらその候補をまた入力して、そこからさらに100種類作らせる、といったこともできる。
――なるほど、最初に希望の要素、いわゆる召喚の呪文を入れる作業と、最後に80点のものから100点に近づけていく作業は、人間が担当するというわけですね。
三宅 はい、具体的にはその接続部分、人間とAIがどのようにやりとりするかということがディープラーニング以降のゲーム制作の最大のテーマとなるでしょう。
――Stable DiffusionやMidjourneyでも、呪文の唱え方に苦労している人のコメントをよく見かけますが、プロの、しかも3Dの現場では、さらに複雑で繊細な入力が求められるのでしょうね。
三宅 AIを完全に使いこなせるのは、今時点では専門家だけです。コンピュータでいうと1970年代頃の状況ですね。手が届くハードやソフトがあっても、それらはプログラムの知識がなければ動きませんでした。様々なユーザーインターフェイスが作られることによって、それを多くの人々が使いこなせるようになるのが次段階です。
――人材としてはAIに特化したエンジニアの育成が必要ということですか。