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映画監督・押井守「パワハラ・セクハラに悩む日本人が激増した理由」

『押井守の人生のツボ2.0』 #2

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 パワハラ・セクハラの線引きはどこにあるのか? 近年、ハラスメントに悩む日本人が激増した理由を、世界的映画監督の押井守さんが看破! 前代未聞の人生相談本『押井守の人生のツボ 2.0』(構成/インタビュアー:渡辺麻紀)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)

なぜパワハラ・セクハラに悩む日本人が増えたのか? ©文藝春秋

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【Q:パワハラ、セクハラの線引きは……(会社員・50代・男性)】

 パワハラ、セクハラはダメですよね。もちろん私も肝に銘じています。ただ、どこからがそれにあたるのか、明確ではない分難しい……。書類の不備があった部下を注意すればパワハラ? 長い髪の女性が、ショートカットにしてきたときに「髪切ったね」と言えばセクハラ? 考えるだけでストレスなので、もう一言も話さないほうがいいのでは……と思うようになってきました。

押井守「まずは人間関係を築くことから始めよう」

押井:パワハラって、ウチらの業界で言えば怒鳴りつけたり、ケリを入れたりのこと? 昔はよくある話だった。某有名監督なんてパワハラ&セクハラのふたつを網羅してましたよ(笑)。

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 そういうのって煎じ詰めれば人間関係のことですからね。人間関係がうまくいってないから、そういうことが問題になる。お互いの間にちゃんとした信頼関係が築かれていれば、ケリを入れられようが問題にはならない。

 怒るためのエネルギーってハンパないんですよ。その相手にそれだけのエネルギーを費やしているんだから、むしろ申し訳ないくらいに思ってもいい。ヒマでもないその人間が貴重な時間を使って怒っているんですから。

――この時代に、「上司は、ぼくのためを考えて怒っているんだ」、なんて思う若者はいません。

押井:うちの師匠(鳥海永行)なんて、怒り始めたら2時間は止まらなかったんだけど。

――いまそれをやったら完全にアウトじゃないですか? そもそも鳥海さんは押井さんの“師匠”なんだから、怒られても「ぼくのために」と思えるだろうけど、普通はそうはいかない。怒るほうも、見込みのある部下を鍛えているというより、もっと邪な気持ちかもしれないじゃないですか。

押井:だから、そういうのをまとめて「人間関係が成立してない」と言うんです。人間関係を築くことすらしてないところで何かやればパワハラになりセクハラになる。行為は同じにもかかわらず。

――信頼関係があれば「愛のムチ」になり、なければ「いじめのムチ」に感じてしまうわけですね。

押井:そうです。すべては人間関係、信頼関係が決めるんです。

――でも、ふたりの見解が違っている場合もありそうじゃないですか? 上司は部下を見込んで愛のムチをくれてやっていたつもりだったのに、その部下はまったくそんなこと思ってもいなかった。