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「リアクションしてくれないのね…」藤井聡太以前、以後で将棋は変わった 果たして“史上最年少名人”は誕生するのか

「リアクションしてくれないのね…」藤井聡太以前、以後で将棋は変わった 果たして“史上最年少名人”は誕生するのか

プロが読み解く第81期名人戦七番勝負 #4

2023/05/29
note

 飛車銀取りには銀のほうを引いて飛車角交換に。渡辺は角と引き換えに飛車を手駒にしたものの、自陣に角を打たれるスキが多く、居玉のままでは防ぎきれない。いつの間にか形勢が大差になってしまった。

 渡辺が効果を期待した「角引き」が通らなかった。これが、早く終局してしまった要因である。

「僕も、角引きには飛車を逃げるのかと思っていまして、ああそうか放置するものなのかと感心していました。渡辺先生が角を王手で出た手に80分考えて、角を引いた手に対し飛車先を叩かれた局面でまた大長考していたので、そこで長考は明らかに変だなと感じていました。形勢が傾いたところでは、渡辺先生は局面をさかのぼって何が悪かったか考えているような印象でした」(石川五段)

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 藤井は読み切っていた雰囲気だったのだろうか。

「いや、雰囲気を見てもわかりませんでした。常にひたすら手を読んでいる印象で、集中力がものすごいなあと」(同前)

夕食休憩前に終局

 ABEMAの中継では、解説の郷田真隆九段も手詰まりの印象を語っていた。

「これは困りました。色々な含みを残すのがプロの技なんですが、歩切れで技が使えないのが辛いんですね。これぞプロという手が指せなくなってしまいました」

 やがて渡辺は、藤井相手に無駄な手は指せないと、夕食休憩前に潔く頭を下げた。

 感想戦、渡辺は角引きを無視する手に気が付かなかったことを悔やみ、「(角引きには)基本リアクションしてくれないのね」「そうか攻め方が難しいのか」とぼやいた。

 藤井は相変わらず楽しそうで、笑顔を見せている。

名人戦第4局は、福岡県飯塚市の「麻生大浦荘」で行われた 写真提供:日本将棋連盟

渡辺は「もっと下準備しておくべきだった」と反省

 渡辺の攻め方がまずかったということで代案をいくつか検討するが、ここでも藤井はまったく違う方向性の読みを見せた。それは、角を王手で飛び出す手に代えて、歩で香を叩いてから香取りに飛車を出る手順だった。金を上がって守りを厚くすると思いきや、なんと藤井は香を打って香を守る手が本線だったという。以下、玉自ら危地に赴いて守る、危険きわまりない手順をにこやかに示した。

「渡辺さんは、1歩あれば攻めがつながると思っていたが、いざその局面になると難しかったと。もっと下準備しておくべきだったと反省していたそうです。ですが、ただでさえ膨大な研究量だったでしょうし、そこまで調べるのは大変でしょう。感想戦で出た香打ちですか? あの手はAIも候補にあげていたんですが、怖すぎて指さないかと思っていたんです。ところが藤井さんは本線だったみたいで驚きました。玉を上がって眉間で受ける手ですからねえ……」(深浦九段)