リスは頬袋にドングリやなどの餌をいっぱい貯める
高見沢さん所有の驚異的なギターコレクションについては、500本を超えた時点で私もお話を伺ったことがありましたね。毎日1本弾いても1年半くらいかかってしまう計算になりますが、さらにあれから1割以上も増やされているのですね。
リスは頬袋にドングリやクルミなどの餌をいっぱい貯めて、穴を掘って中にしまっておくという習性があります。これを貯食というのですが、意外にも、貯めることに一生懸命になり過ぎて、しまった場所がどこだったか忘れてしまうことがあるというんです。リスがどう思っているかは人間の身からは定かではありませんが、彼らの脳内では収集自体が価値の高い行動として報酬を得られるような仕組みがあるのではないでしょうか。
餌とは違ってギターは食べられないのですが、収集自体が楽しい、ということについては、人間にも共通する神経基盤があるのかもしれません。経済的に圧迫されてしまうだとか、物理的に維持が困難で生活のためのスペースが奪われてしまうだとかいった困ったことが生じるのでなければ、特にやめる必要はなく、むしろ意義のあることかもしれないのです。
アメリカのファインアートのコレクターたちの間には、作品を「自分が所有する」のではなく、「長い美術史のなかで今、一時的に自分がお預かりしているのだ」と捉える雰囲気があるそうです。自分がその作品を迎えるというのは、それを大切に維持し、次世代に繋いでいく歴史的な使命を全うするのだという決意とセットなのだということなのです。
高見沢さんがヴィンテージやシグネチャーモデルのギターをコレクションすることにも、同様の意義があるものと拝察します。半世紀という長い期間にわたって、日本の音楽シーンを華やかに彩る存在感を示し、活躍してこられた方だからこその使命であるとも思います。またそういう方が収集されているということで、説得力を持つコレクションともなっています。
中途半端な規模ではなく、コレクションは大きくなればなるほど価値が生まれるというサイズエフェクトもあります。高見沢さんのコレクションは、もはやミュージアム級ではないでしょうか。