さらに、国では70歳以上のドライバーに対して、免許証更新の前に「高齢者講習」を受けさせ、75歳以上になると高齢者講習のほかに「認知機能検査」の受検も義務づけています。なぜ、75歳以上だけが検査を受けなければならないのか。ドライバー全員に検査を受けさせるのならわかりますが、高齢者だけに義務づけるのは年齢差別であり、高齢者いじめともとらえられかねません。これではまるで、高齢者は認知機能が低下しているのだからさっさと免許を返納しなさいと言っているようなものです。

高齢者ばかりがやり玉に

 実際に警察庁が定期的に発表しているデータ「令和4年中の交通事故の発生状況」から、「原付以上(自動車、自動二輪車および原動機付自転車)運転者の年齢層別免許保有者10万人当たりの交通事故件数」を見てみると、16~19歳が1039・2件と圧倒的に多く、次いで20~24歳が597・2件、この次に85歳以上が498・4件とくるのですが、このように若い世代に事故が多いことがわかっていても、世間の目は高齢者に冷たいのです。

 確かに、高齢になると、動体視力や反射神経が衰えてくるため、ペダルの踏み間違いによる事故が増える傾向にありますが、このような事故は高齢者に限らず、すべての世代で起こりうる事故ですし、実際に起きています。

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 年老いた親の運転免許証を返納するよう、息子や娘が説得する姿が美談のように語られていますが、わたしにはとても違和感があります。免許証返納による親が抱えるリスクについて考えたことはあるのでしょうか。

免許証返納が認知症を招く

 都心部に住んでいる場合は、クルマを使わなくても生活に支障はきたさないかもしれませんが、地方に住み、スーパーやコンビニに行くにもクルマが必要な人が運転免許証を返納し、引きこもってしまえば、外出の機会を失い、活動量が激減するため、わずか数年で要介護状態になったり、認知症となったりする危険性が高まります。筑波大学の調査では、高齢者全員に免許証を返納させたら、要介護率は約2・2倍に増えるということが報告されており、むしろこちらのほうが問題です。