「今にひどいことになるよ」
一方で私の中で引っかかっていることがある。OSOがなぜ乳牛を襲うようになったか、そしてOSOがなぜこれほどまでに巧妙に人間から逃げ続けることができたのか。その答えを探っていくと、OSO18を作り上げたのは、最初から最後まで人間だったとも言えるからだ。栄養価の高い牧草を食べることで増えたエゾジカによって肉の味を覚え、家畜の飼料として作付け面積を増やしているデントコーンに引き寄せられるように牧場にやってきた。
そして人間の側がその捕獲にてこずっているうちに、人間のことを学習し、その危険を巧妙に避ける術を身に着けたのがOSO18という“怪物”である。
牧場にやってきたすべてのクマが牛を襲うわけではないはずだが、単純に両者の接触の機会が増えれば、襲撃に転じる可能性は高くなると言わざるを得ない。それは何も牛に限った話ではなく、例えば相手が人間であっても、接触の機会が増えれば何が起こるかわからない。それがヒグマが野生動物たる所以でもある。
藤本によれば、かつてOSOが出没した地域に今、OSOよりもはるかに大きなクマが〈ゴロゴロ〉いる。彼らもまたOSOと同じくエゾジカもデントコーンも口にしている。
先のインタビューで、私は藤本と赤石に「このままではいずれ、第2、第3のOSOが現れますか?」と尋ねた。間髪入れずに藤本は「出るよ。間違いなく」と答えた。
赤石の言い方ではこうなる。
「クマっていうのは、一度味を覚えたら、必ずまたやるから。これだけクマが増えて、ハンターは逆に減っていって、今にひどいことになるよ」
OSOとの戦いは、いずれ終わるだろう。だが、もしかするとそれは人間とクマがこれから迎える本当の戦いの「序章」に過ぎないのかもしれない。