沢田研二に時代が再び追いついてきたようだ。

 映画『土を喰らう十二ヵ月』でキネマ旬報ベスト・テンなど複数の映画賞で主演男優賞に輝いたのも記憶に新しいところだ。

 そして沢田の誕生日に開催された“因縁”のさいたまスーパーアリーナでのライブでは、なんと一万九〇〇〇枚のチケットが完売した。快挙だ。五年前の公演キャンセル、いわゆるドタキャン騒動を巡って、昼の情報番組で「七千人のファンが可哀想だ」と善人ぶったお笑い芸人たちの発言を、私は嘲笑した。

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 BS-TBSはコンサートを前に『沢田研二 華麗なる世界 永久保存必至!ヒット曲大全集』で、全二四曲を放映した。

沢田研二 ©文藝春秋

 ザ・タイガース時代の曲や、日本レコード大賞を選ぶステージの華やかさと緊張感も時代を越え伝わる。

 しかし七八年から始まった『ザ・ベストテン』が観ていて心地よい。まだ若く手強い黒柳徹子と久米宏の司会陣を相手に、軽く受け流したり笑ってみたり、ジュリーは軽快にトークしてからマイクに向かう。

 早口でジュリーに絡んでいく徹子さんが本当に嬉しそうでね、彼のフェロモンで躁状態になっているのが可愛くて一見の価値あり。

 誰もがジュリーの魅力にやられてしまう。ドタキャン騒動の直後に、本誌も五頁の特集を組んだ。見出しは〈沢田研二5億円豪邸でマスオさん生活〉とトゲがあるが、記事は意外や彼に寄り添った内容だ。

 記者が彼を直撃する。スタッフが気を遣ってタクシーを停めようとすると〈ちょっと歩いていこ。(中略)と小誌の取材から逃れようともせず、悠然と歩き続ける〉。格好いいだろ。

 疑惑の渦中にある政治家や芸能人の姑息な対応を見慣れてきた記者たちには、清新に映ったはずだ。スタッフが「ケンちゃん、走るか?(笑)」といえば「もう走ったら腰抜けるで(笑)」だ。好感もつよ。

 記者たちの気持ちが変化していく様子が伝わる、心地よい素敵な記事だった。

 スタジオで華やかに歌うジュリーの姿をいま観ていると、ああ、私たちはいい時代を生きてたなと思う。

 この頃、ある雑誌に私は沢田研二について書いたことがある。「――近未来、耐乏生活を余儀なくされている私たちにとって、現在ブラウン管に映し出されている沢田研二の姿こそ、過ぎ去った繁栄の時代を思いかえすさいの格好のスーベニールになるだろう」。阿久悠のベストCDボックスに添付された解説に引用されたという。解説者の北沢夏音氏は「この卓見に今は付け加える言葉もない」と記したそうで嬉しい。

『ザ・ベストテン』を観ていると、貧しくなったいまの日本人には、あのころのジュリーは心ときめくスーベニールだと確信する。

INFORMATION

『沢田研二 華麗なる世界 永久保存必至!ヒット曲大全集』
BS-TBS 特別番組
https://bs.tbs.co.jp/music/sawadakenji/