「よくわからないし、いきなり偉そうにされても」
「体育会で出会った監督やコーチの中には、選手に対して偉そうにする人もいましたが、そこにはちゃんと“競技で記録を伸ばす”という目的や理由があるわけです。その監督に今までどんな経歴があってどんな実績があるというのもはっきりしている。だから『この人の言うことを信用してついていけばなんとかなる』と思って、厳しい指導も頑張れました。
でも、入社間もない会社では上司の実績も人柄もよくわからないし、いきなり偉そうにされても、それはただの理不尽な叱責としか思えませんでした」
就職活動中は、こうした企業の空気や体質が見えることはなく、「会社にいい印象を持っていた」という愛川さん。
「新卒採用の選考は4次面接までありましたが、最初のグループ面接では人当たりのいい若手の社員さんが担当だったし、最終の役員面接も体育会系な印象はなかったですね。
内定をもらった後に就活サイトとかで企業の評判も調べたので、それなりに上下関係が厳しい会社であることは予想していました。それでも行ってみなければ分からないし、どんな企業だってプラスもマイナスもあるだろうから、まず3年間くらいは頑張ってみようかという気持ちだったんですが……」
入社前には気づけなかったこと
だが――。出社初日の夜には、もう辞める決意を固めていたという。
「全国チェーンを展開している企業なので、配属次第では家族も友人もいない土地で、こんな雰囲気の上司と一緒に働くことになるかもしれない……。そう思ったらもう無理でした。『入社前から分かることじゃないか』と言われればその通りですけど、私は会社や上司の雰囲気まで完全に掴むことはできませんでした。とにかく、辞めることに迷いはなかったです」
翌日、愛川さんは会社に電話をして退職の意向を伝えた。
「本当は何も連絡せずに音信不通になってしまおうかなと思ったけど、さすがにしませんでした。人事の方は驚いた様子で引き留めて、『とりあえず一度会って話をしよう』と言われたので、後日、面談する約束だけはしました。でも、辞める決心は固かったので話をしても意味がないと思っていましたね」
数日後に本社まで出向いて話を聞いたものの、その面談でも、本音を伝えることはなかったという。