2022年11月の開園以来、早くも愛知県を代表する人気スポットとなっているのがスタジオジブリ作品の世界観を表した公園施設・ジブリパーク(愛知県長久手市の愛・地球博記念公園内)だ。その一角で、空間を創造した張本人、ジブリパークの制作現場を指揮する宮崎吾朗さんに話を聞いた。

「重いプレッシャーを感じる映画づくりと比べて、パークづくりのほうが自分にとってずっと楽しい」――そう語った吾朗さん。スタジオジブリというもの、そして「父・宮﨑駿」とは、どのような存在なのか。さらに9月21日、スタジオジブリは日本テレビの子会社となることを発表。会見の場で語られた“スタジオジブリの後継”に対する吾朗さん自身の思いとは。(全2回の2回目/前編を読む)

宮崎吾朗さん ©杉山拓也/文藝春秋

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とにかくおもしろがって進めることを優先。それがジブリの精神でもあった

 ジブリパークであらかじめ計画されていた5つのエリアは、来春にすべてオープンの運びとなる。制作を統括する監督の立場として、この仕事の満足度はいかばかりか。

「僕のキャリアは公園をつくる仕事から始まったので、長い時間をかけてまた原点へ戻ってきた感はあります。本当に自由にやらせてもらいました。ここはジブリの拠点がある東京からほどよく離れているので、すぐには細かいチェックや横槍が入ったりしません(笑)。その隙にこちらでどんどん進めてしまえという方針でやってきました。

©杉山拓也/文藝春秋

 ここはジブリパークなので、ジブリらしさを尊重しながらつくるのは大前提ですが、それ以外に細かい制約事項はありませんでした。現場で制作する身としては、とにかくおもしろがって進めました。それがジブリの精神に適うやり方でもあるので。ジブリはもともと宮﨑駿と鈴木敏夫が、自分たちのおもしろいと思う映画を気兼ねなくつくるために立ち上げた会社。以来、おもしろいと思ったことはなんでもやってみる精神が根づいています。そうした気風を残し受け継ぐのが僕らの務めでもあります」

 ジブリパーク自体が宮崎吾朗作品とも言えるだろうが、ジブリでこれまで自身が手がけてきたものとの違いはあるだろうか。計画段階から造営責任者建築プロジェクトの総合デザインを務め、完成後は館長も務めた三鷹のジブリ美術館と比較するとどうか。

愛・地球博記念公園の北口広場近くにある、高さ約30メートルの「エレベーター塔」 ©杉山拓也/文藝春秋

ジブリ美術館は内向き、ジブリパークは外向きの構造

「ジブリ美術館とジブリパークは結果的に、ずいぶん違うものとなった印象です。ジブリパークは公園なので、施設のあり方としてオープンなつくり。いっぽうでジブリ美術館は、宮﨑駿作品の世界に引き込まれどんどん内側へ入っていくようで、クローズなつくりになっています。

 訪れたことのある方は体感しているはずですが、ジブリ美術館ではすべてが内向きにできています。エントランスを通るとまず地下へずっと潜っていき、底までたどり着くと真ん中にホールのある空間に出る。ホールに面し展示室が連なっており、滞在しているあいだ視線が常に内側を向くことになります。螺旋状の動線に沿ってぐるぐる回りながら上昇していき、出口へ至るまでちょっと暗い空間に閉じ込められたまま。

 思えば宮﨑駿のアニメ作品はどれも、ジブリ美術館と同じく内側を向いた構造となっています。最新作『君たちはどう生きるか』も例に漏れず、ストーリーが進むにつれて主人公はどんどん世界の内側へと吸い込まれていく。宮﨑駿の思考の根っこに、内奥深く潜り込んでいく傾向があるのでしょう」