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ウクライナは停戦寸前だった

 結局2年弱で外相を退任した林氏。その職務の大きな部分を占めたのが、ロシアによるウクライナ侵攻への対応だったことは論をまたない。林氏は番組の中で、ロシアとウクライナの停戦交渉が一時合意寸前までいっていたことを明らかにした。

「(侵攻開始から)1か月後ぐらいだったと思いますけど、もう少しで妥結できるんじゃないかっていう話がありました。(ウクライナ)東部とクリミアについては別途協議をする。ロシア軍はウクライナ国内から撤退する。ウクライナはNATOに入らない約束をする。ウクライナの安全保障のためにアメリカとロシアが両方入った枠組みを作る。ただこの後にブチャという町で惨たらしい惨殺死体が見つかって、できかけた合意がすっ飛んじゃったわけです。(ウクライナは)おめおめとサインするわけにはいかないと当然なりますよね」

 その後の戦況から林氏は現状では停戦合意は「非常に難しい状況」とした。しかし、来年3月のロシア大統領選挙、来年11月のアメリカ大統領選挙が状況を変える可能性があるとして、「戦況に加えてそういう(政治の)日程感も見て、仲介の努力をしている人たちと連携すること」の重要性を訴えた。

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「媚中派」と呼ばれて

 一方、林氏といえば日中友好議員連盟の会長をしていた経歴などから「親中派」として知られ、そのことがネット上などで時に批判の対象となってきた。これについては次のように反論した。

「中国には何度も行っていますし、よく理解している一人だと思っていますけども、よく言われてた『媚中派』とか、ただ仲良くするだけだというのはしっかり否定しておかなければいけない。外交をやるということは、我が国の国益を最大限にするためにやっていると。そこは外しちゃいけないと思っています」

 林氏が外相を務めている間、中国外交も常に大きな課題だった。日本人ビジネスマンが反スパイ法違反の疑いで拘束されたり、福島第一原発の処理水海洋放出を巡って日本の水産物が全面禁輸になったり様々な出来事があった。林氏は対中国外交でもっと存在感を示せなかったのか。筆者が「親中派」と見られたことで逆にやりにくい側面があったのではないかと質すと、林氏は語気を強めた。

「親中派と言われてるから、中国とは(外交を)やりたくないと言ってるんだったら、外務大臣をやらない方がいい。日本の国益のためという基本線は外さないでずっとやってきました」

林氏 ©文藝春秋

「玄人受けだけじゃ駄目だ」

 62歳でありながら、防衛相、経済財政担当相、農水相、文科相、外相を歴任し、林氏が自民党を代表する政策通の一人であることは間違いない。「文藝春秋」2022年2月号では、「記者が選ぶ次の総理」の1位にも選ばれた。しかし世論調査では、決して国民的な人気や期待感が高いとは言えない。番組に出演した東洋大学の横江公美教授は、「林さんは通好み。国民にもっと自分の考えを宣伝してください」と手厳しい。これに対して林氏はやや神妙にこう答えた。

「横江さんがおっしゃったことは自分でもちょっと感じてるところがあって、玄人受けだけじゃ駄目だなといつも思ってるんです。努力しなきゃいけないと思います」

 そんな林氏は、宰相になってどんな国造りをしたいと考えているのか。近頃、気になった若者言葉があるという。

「最近若者は、『タイパ』って言うらしいですよ。タイムパフォーマンス。自分の時間をどれぐらい有益に過ごしているかって。この言葉にすごくビビッと来た。タイパが高いというところに、金銭じゃないものが結構入っているんです。私は経済的に豊かになるだけでいいんだろうか、もっと言えばGDPが増えればいいのかという思いがあって。無形価値、無形財産みたいなものとか、さらには財産として価値がないけど、環境とか、家族と一緒に過ごす時間とか、そういうものを足し上げていって政策目標にして打ち出したいと思っているんです」

「経済、経済、経済」と連呼して減税に突き進む岸田総理と、経済的豊かさだけでない「タイパ」を重視したいとする林氏は、決して似た者同士ではない。ただ政権が窮地に追い込まれる中で、総理派閥のナンバー2の林氏がどのような存在感を発揮し、政権を良い方向に向けることができるのか。岸田政権の行方に、林氏の次世代総理候補としての真価も試されることになるだろう。

 林芳正前外相が出演したオンライン番組「青山和弘の永田町未来café」は、「文藝春秋 電子版」でアーカイブ配信を観ることができます。