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 ではなぜ国連人口部は、先進国の人口を高めに、アフリカの人口を低めに予測するのか。それは人口転換論という思想を予測の前提にしているからだ。

 人口転換論とは「近代化が進行するにつれ死亡率は低下していくが、その過程で、多産多死時代の高い出生率がしばらく維持され、出生率が下がるまでのあいだ多産少死状態が現出して、一回きりの人口爆発が起こる。やがて出生率も低下して少産少死となり、人口はふたたび定常状態に復帰する」というものである。国連人口部はこの思想に基づいて、人類全体の人口定常化をおよそ100年後に遠望しているのである。

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アフリカ農業は女性と児童労働に依存

 しかし、人口学が発展するにつれ人口転換論の綻びが徐々にみえてきた。なかでも深刻なのは新たな人口定常、すなわち出生率の人口置換水準への回復が、どの国においても実現していないことだ。出生率の動向を説明できる理論はいまだ存在しない。したがって出生率を引き上げる決定的政策もない。先進諸国の人口増加率を動かしているのは、むしろ移民の数である。

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 他方アフリカに関しては、数々のサンプル調査から判断する限り、国連人口部が想定するスピードでTFRが下がっていくという確たる証拠はない。一夫多妻婚比率は安定して高く、児童婚・若年婚比率も高く、夫妻双方における希望子供数は多くの国で5人を超えている。10代で結婚する女性が多く、これが一夫多妻制を支え、出産期間を長くしているのだ。そこには、いまだ6割の人口が農村に暮らしていて、その過半が食糧生産に従事し、農地が拡大し続けているという背景がある。アフリカ農業は女性と児童労働に多くを依存しているのである。