今回は『人間革命』を取り上げる。原作は池田大作。自身の師でもある創価学会二代目会長・戸田城聖の半生を追った小説を映画化した作品だ。
太平洋戦争末期、信教を捨てて転宗することを拒んだことで投獄されていた戸田(丹波哲郎)が出所してくるところから、物語は始まる。そこからしばらくは、戸田による学会立て直しの苦労、回想を通して初代会長・牧口常三郎(芦田伸介)との出会いと学会設立の経緯が描かれていく。
ただ、この段階は正直なところ、あまり面白くはない。事実関係の変遷をたどるだけの、一代記映画にありがちな年表的な展開になっており、盛り上がりに欠けるのだ。
だが、本作の脚本を書いたのは橋本忍だ。本連載でも何度か述べてきたように、橋本脚本は途中までは、ともすれば退屈ともいえるような展開が続いたとしても、どこかしらの段階で急激なギアチェンジをして一気呵成に盛り上げていく。この構成は、橋本が愛してやまなかった競輪において「ラスト一周のまくり」で大いに盛り上がることを参考にしたものである。
そのため、橋本作品を見慣れてくると、前半の時間が淡々と過ぎていたとしても、どこかで「仕掛け」が始まり、怒濤の「まくり」へと突入するだろうという期待がある。
本作も、そうだった。仕掛けのタイミングは物語の中盤だ。戦時中、牧口とともに戸田は逮捕される。転宗をうながす検事(青木義朗)に対し、戸田は頑として譲らない。それどころか、独房でひたすら法華経の謎について悩み続ける。そしてある日、「やっとわかったぞ!」という大絶叫とともに真理に気づくのだ。
ここが、本作の仕掛けのポイントだった。その後、牧口の死をもって前半「第一部」は終わり、後半の「第二部」へ。そこからが凄い。学会員への「勉強会」を通して、戸田が教えを説く様が延々と映し出される。そう聞くと、とんでもなく退屈な場面なのではないかと思われるかもしれないが、全くそうではない。
説法をする丹波のテンションが、あまりに猛烈なのだ。気合の入った演技を「熱演」と評することがあるが、この時の丹波はいかなる俳優の熱演もクールに思えてくるほどの大熱演を繰り広げる。その凄まじい圧を受け続けると、学会員ならずとも巻き込まれていく。そして、気づけばアッという間にエンディングへ。
この後半の熱狂を際立たせるため、橋本脚本も丹波も前半はあえて抑え目に表現していたのだ。見事な計算だ。
現状、なかなか観られる機会の少ない作品なのが残念だが、もし機会に恵まれた際は決して見逃さないでほしい。