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「全世界の80億人にベーシックインカムを」チャットGPTを開発したサム・アルトマンの人類救済ビジョン《橘玲氏が解説》

2024/05/06
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世界の終末に備える「プレッパー」

 テクノ・リバタリアンとは世界規模のテクノロジー企業で実権を持ち、数理的・合理的な思考に長けた者たちのことで、イーロン・マスクや決済システム「ペイパル」を創業した連続起業家であるピーター・ティールはその典型である。イーロンらを「第一世代」とするなら、アルトマンらの「第二世代」の特徴は、いじめのようなネガティブな個人史がほとんどない(すくなくとも語られない)ことだ。

橘玲氏の新著『テクノ・リバタリアン 世界を変える唯一の思想』(文春新書)

 アルトマンは私立高校で保守的なキリスト教徒のグループが性的多様性についての集会をボイコットしたとき、全校生徒の前で自分は性的マイノリティだとカミングアウトし、「この学校を抑圧的な場所にしたいのか、それとも異なるアイデアに開かれた場所にしたいのか」と問うた。

 当時のスクールカウンセラーは、「サムの行動が学校を変えました。それはまるで、さまざまなタイプの子どもがいっぱいつまった大きな箱を開けて、子どもたちを世界に解き放ったようでした」と語っている。

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 テクノ・リバタリアンの「第二世代」には、ピーター・ティールから感じるような「世界に対する敵意」(そしてこれが、ティールの魅力にもなっている)がないが、アルトマンとティールには共通点がある。どちらも、世界の終末に備える「プレッパー(準備する者)」であることだ。アルトマンも子どもの頃から死を不条理だと思い、いつも世界の終末について考えているという。

 パンデミック、超絶AIの暴走、核戦争などに備えて、アルトマンはカリフォルニア州に広大な私有地を購入し、そこに「銃、金(ゴールド)、ヨウ化カリウム、抗生物質、電池、水、イスラエル国防軍のガスマスク」を備蓄している。さらには「予備計画」として、最悪の場合は「ティールとプライベートジェット機に乗ってニュージーランドに避難する約束をしたよ」と語っている。ティールもまた、核戦争など「世界の終末」でもっとも生き残る可能性が高い国として南半球のニュージーランドを選び、そこに巨大なシェルターをつくったとされている。