例えば高齢のモデルを起用することで、若くて長身の人ばかりがモデルとして起用されることにアンチテーゼを唱える〈fashion designer/activist>であったり、自らの店舗で資源を回収するなどの活動を通してゴミ問題を伝える<founder/activist>であったり。そういう意味では、私もさしずめ〈writer/activist〉ということになるな、と。
もちろん、日本でもあえて言葉にしないだけで、確かな志を持って活動をされている方は多くいらっしゃいます。そうした方々の小さな声と対峙し、誇張したり捻じ曲げたりすることなく、適切な形で届けていくことができないだろうか……と模索しながら執筆した本でもあります。
不妊治療をめぐる「身体の声」
――塩谷さんのいう小さな声には、社会でかき消されがちな声のみならず、「身体の声」も含まれています。とくに不妊治療にともなう痛みの記述には、大変驚きました。
塩谷 不妊治療をめぐる私的な話を、紙の本という確実に残るメディアに収録するか否かというのはかなり迷いました。でもnoteでこうした話を書いたときに、若い女性から「塩谷さんのnoteを読んで検査をし、子宮内膜症が見つかりました」という声が届いたり、男性からも「ちっとも知らなかったので、読めて良かったです」という感想が届いたりしたんですよね。
私自身、知識不足で治療に挑んだため大変な遠回りをしてしまったのですが、多くの人が水面下で治療をしているために知識が共有されず、適切な医療に繋がるための道がちっとも舗装されていないのだな……と痛感するようになりました。そこで、産婦人科医の稲葉可奈子先生に内容に医学的な間違いがないかご確認いただいた上で、本書にも収録することに決めました。
ただ、私の体験記を読んだ方が、検査や採卵に対して「そんなに痛いの?」と二の足を踏んでしまったらどうしよう、という懸念もあります。私はかなり苛烈な痛みを経験しましたが、そうではない人も大勢います。だからあくまでも個人の体験記として読んでいただきつつ、他の方々のレビューやデータに目を通すきっかけになればと思っています。
――とても意味のある共有だと思いました。社会における小さな声って、どうしたらもっと他者に伝わると思われますか?
喧騒の中でも、話を聴いてもらうには?
塩谷 それは、とても難しいことですよね。ただ私の中に印象深く残っているのは、子どもの頃にお世話になっていた演出家の言葉です。その先生は劇団員だった私たちに向けて「喧騒の中で、話を聴いてもらうにはどうしたら良いと思う?」という問いを投げかけたんですね。私たちは「身体を精一杯動かしてみる」とか「音楽を鳴らす」といったことを答えていたと思うのですが、先生は「小さな声で話すこと」だと言うんです。そうすれば周りの人は音量を下げ、耳を傾けてくれますよ、と。
まわりが騒がしいから目立とうとして声を張り上げるのではなく、小さな声で話す。そうした真逆のアプローチがあることを知って、子供心にすごく感銘を受けました。