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同社の報告書では、芦原氏を「(原作どおりの映像化にこだわる)難しい作家」と書いていたが、なぜ「難しい」という表現になるのか。それは、出版社としてコミックの売り上げを伸ばすため、テレビ局とは仲良く連携してドラマ化を進めたいという思惑があるのに、原作者がそのプロジェクトを「難しくしてしまう」という意味合いがありそうだ。

担当編集者は脚本の修正を聞き入れてもらうため、日本テレビのプロデューサーを電話で説得したとき、「芦原氏は初めの時点で話したとおり改変を容易に認めることのない作家で、これ以上押せば極めて危険で、全てをひっくり返す騒ぎになりかねない」と言ったという。「極めて危険」というのは、編集者とプロデューサーが進めるメディアミックスのプロジェクトにとってのリスクという意味合いか。本来なら、編集者はあくまで原作者側に立ち、作者の思いを伝えるべきだったのではないだろうか。

そして、やはりどうしても版元が当てにならないのなら、漫画家や小説家がマイルールとしてもいい。「最終回までの台本を出してくれなければ、ドラマ化は許可しませんよ」と。日本テレビの報告書には、プロデューサーの声として「今回の件で原作もののハードルが上がった」というコメントがあった。そう、「セクシー田中さん」事件後の今なら、著作権をもつ原作者は本来の権利を行使し、もっと強気に出られるはずだ。それこそが、悲しいことだが、芦原氏がその死をもって打ち破った壁なのだから。

村瀬 まりも(むらせ・まりも)
ライター
1995年、出版社に入社し、アイドル誌の編集部などで働く。フリーランスになってからも別名で芸能人のインタビューを多数手がけ、アイドル・俳優の写真集なども担当している。「リアルサウンド映画部」などに寄稿。