「彼は殺されているように見える。つまり他殺死体だ」――富士の樹海で、真冬なのに上半身は裸で見つかった、若い男性の死体。いったい彼に何があったのか? そしてなぜいまだ事件化していないのか? ライターの村田らむ氏の新刊『樹海怪談 潜入ライターが体験した青木ヶ原樹海の恐ろしい話』(彩図社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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「死体探しが趣味のKさん」からきたLINE
ある日、ファミリーレストランで食事をしているとKさんからLINEで写真が何枚か送られてきた。食事の手を止めて携帯を見ると、死体の写真だった。慣れっこなので、食事の手を止めずに見る。
Kさんはどんな死体を見つけても平気なのだが、今回は珍しく少し焦っているようだった。
「探し始めてすぐに見つけたんだけど、ちょっと怖いからすぐに現場を離れました」
Kさんは死体を見つけたあとはしばらくその場に滞在して飯を食ったりする人なので、珍しいこともあるものだと思った。
あらためて送られてきた写真を見てみる。その死体は、たしかに一目で分かるほど異様だった。
死んでいるのはまだ若い男だ。
木に首を吊っている。
20代……ひょっとしたら10代かもしれない。
すでに表情を失っているが、黒髪の短髪でヤンチャそうな顔つきをしている。
つまりまだ表情が分かるほど。死体はほとんど腐っていない。
倒れた樹と首をタオルで結び、ブラリとぶら下がっている。足は地面から浮いている。
まず一番に目につく異様な点は、男性の上半身が裸である点だ。
死んだのは真冬なのに裸。そもそも夏場だって樹海に裸で行く人はいないだろうが、真冬に裸になる人はいないだろう。
そして彼のまわりに服はどこにも見当たらなかった。下半身はジーンズをはいているが、靴は片方が脱げて下に落ちており、もう片方は見当たらなかった。首を吊るのに、わざわざ靴を脱いだのか?
身体にはいくつもの赤い痣ができていた。拷問をした痕のようにも見えるし、縄で縛った痕のようにも見える。手は赤黒く変色していたが、これはうっ血したためのようだった。
そして、足が空中に浮いているのもおかしかった。踏み台があるなら分かるが、踏み台はどこにもない。写真を拡大してみてわかったのだが、首を括っているタオルの上には、自転車の荷台を縛るロープが巻かれていた。自分で自分の首をタオルで巻いたとして、その上からさらにロープを巻くのはとても難しいだろう。そもそもタオルが喉にかかっていない。窒息もしていないし、頸動脈も絞まっていないのだ。
長々と書いてきたが、彼は殺されているように見える。
つまり他殺死体だ。