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NTTデータグループ女性執行役員が語る「大企業が陥る危険な罠」

NTTデータグループ女性執行役員が語る「大企業が陥る危険な罠」

『サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠』を池田佳子氏が読み解く

6時間前

source : 文春文庫

genre : ビジネス, 読書, 社会, 働き方, 経済, 企業

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一週間以上かかっていた作業が3日に短縮

池田 私のカスタマーサティスファクション時代の経験で言えば、当時、ISDNというネットワークがあったんですが、お客様が申しこんでから導入するまでに一週間以上かかっていました。お客様はそのスピード感のなさに非常に大きな不満を感じていらっしゃったわけです。それにはいろいろ原因があって、多部署にまたがるプロセスの煩雑な手続きが障壁になっていたんですね。まだ入社して数年目の頃でしたが、上司から、いろいろな部署に話を聞きにいってこい、と命じられました。そこで、各部署のキーパーソンに話を聞いて回って調整した結果、今まで一週間以上かかっていた作業が、3日に短縮できたんです。

──一週間以上かかっていたものが、3日になったんですか!

池田 私がやったのは、第三者として各部署のキーパーソンの話を聞いて繋ぎ合わせるという作業でした。これも、今思うと、分業化によってサイロ化して見えなくなっていたものが、直接話してみることによって、この部分はショートカットできて無駄を省けるのではないか、ということが可視化されたんですね。当時はもちろん「サイロを壊そう」などと思っていたわけではなくて、技術者の方たちに「これ、どうにかなりませんかね?」とひたすら聞いて回っていたのですが(笑)。でも、まだ入社して間もない私に「いろいろな部署に話を聞いてこい」と言ってくれた上司は立派だったな、と思いますね。

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部下に専門性を2つ持つとよいと勧める理由

池田 ちなみにイノベーションが生まれるパターンは、ゼロから新しいものが生まれるように思われがちですが、実は既存の部署が持つ情報や技術を掛け合わせることで生まれるといわれていますので、考え方は似ていますね。

 それと、私はNTTに入社した後にNTTデータに転籍したり、直近で言えば、NTTデータ北陸と信越の社長を同時にやったりと、2つの異なる場所に身を置くという経験が多くて、同時に2つを見るというクセがついているんです。振り返ってみると、高校時代にはダイバーシティの国ブラジルに一年間留学し、入社後には米国のイリノイ大のロースクールに留学して、南米と北米の両方で生活したりもしています。

『サイロ・エフェクト』の著者のジリアン・テットは、人類学者でもあることから、物事を同時に外部の別の角度から見る「インサイダー兼アウトサイダー」の視点を身につけ、本書の執筆につながったそうですが、私自身ももともと「インサイダー兼アウトサイダー」という感覚が自分の中に自然にあったように思います。部下には、専門性を2つ持つとよいと勧めていますが、実はこれもこの考え方からきていると思います。