赤石によると「(単独猟で)120頭以上獲ったところまではオレも記録していたんで確実だけど、それ以降は記録してないから(捕獲数は)わかんなくなったな」ということになる。
300m先のシカを一発で
その赤石と私が知り合ったのは、私がまだ20代の頃で、これも釣りを通じてだった。
「電気屋さん」こと斉藤と赤石は、シーズンごとに釣り竿と銃を持ち替えて道東を駆け回る仲間で、私も赤石と中標津町の釣り具店でよく顔を合わせ、いつしか一緒に釣行するメンバーになっていた。そのころから赤石が卓越したハンターであり、春には多くのクマを獲る名人級の腕前であると徐々に知るようになる。
長身痩躯、口数はごく少なく、身のうちに静かな精気を漂わせているような雰囲気に最初は近寄り難い気もしたが、「シカ撃ちに行くから、お前、運転手すれ」と赤石に言われたのをきっかけに私は赤石と行動を共にするようになったのである。
年齢は赤石の方が10歳上である。
初めて同行した猟で目撃した赤石の凄さは昨日のことのように覚えている。
そもそも山を歩くスピードが尋常ではない。山の中ではまるで野生動物のようにしなやかに動く。そうかと思うとぴたりと止まり、はるか遠くを見つめている。
「ほれ、あそこにシカがいるべ」と言われても、私には何の変哲もない林しか見えない。
すると赤石は300m先の林に向けて一発撃った。林に行ってみると、そこには立派な角を持ったエゾシカのオスが倒れていた。赤石は樹々や枝によって完全にカモフラージュされていたシカの角をしっかりと見分けていたのである。
とにかく猟となれば夜明け前に家を出て、日が暮れるまでずっと共に山野をかけめぐるような日々を過ごして、赤石正男というハンターの凄さがよくわかった。
ヒグマと山に関する豊富な知識、ヒグマの行動を完全に予測して追い詰める追跡技術、800m先のヒグマを仕留める図抜けた射撃技術や運動神経……私が見た中で赤石の右に出るヒグマハンターはいなかった。
やがて赤石は重機オペレーターの仕事を辞め、羅臼で仲間たちと共にトド猟の船頭をするなどして生計を立てるようになる。そこで私は猟仲間たちと相談し“現役最強のヒグマハンター”である赤石を業務課長としてNPO法人に迎え入れたのである。
その意味では彼は日本では数少ない、給料をもらってクマやシカを撃つ「職業ハンター」のはしりでもあるのだ。NPOの業務課長として有害駆除の捕獲、檻での捕獲、生体捕獲、仲間との巻き狩りなどで捕獲したヒグマは250頭を超える。これに単独猟で獲った120頭を加えると、赤石のこれまでの捕獲実績は400頭近い数字となる。