1ページ目から読む
3/5ページ目

記録係不足の解消も奨励会の課題

――奨励会員の仕事の一つに、記録係があります。幹事の方々が裁量してどの対局に誰をつけるか決めると聞きました。ですが最近は記録係の不足があり、その解消も課題とされています。

黒沢 そうですね。今も不足しがちなので、特に対局日が早々に決まる順位戦の場合は、1ヵ月ちょっと前くらいから決めるようにしています。

中村 今の順位戦は記録係が2人体制で、対局開始から夕食休憩までと、夕食から終局までとで分かれているけど、それはどんな感じで決まっているの?

ADVERTISEMENT

黒沢 基本的に、夜の記録は学校が終わった後の高校生が取れるようにしています。ABEMAトーナメントなどの動画収録が関東で行われることもあり、関東の奨励会員の仕事が増えていますね。熱心な会員は月に半分くらいは記録係を含めた仕事をこなしていますね。

――昔と比べると、学業の比重が相対的に高くなっているから、特に若い会員の方は記録係ができなくなってしまう面はありそうですね。あとはAIの発展などもあって、勉強の場としての記録係の重みが低くなってしまったのでしょうか。

黒沢怜生六段

中村 幹事としては「記録を取らないと強くならない」と言い続けてきたんだけど、自分の奨励会時代は記録をあまりとっていないからなあ(笑)。

記録を取ることが勉強になる

北浜 私が関東で幹事を務めていたころは、まだ記録係に“三段特権”があった時代です。三段は取りたい対局を優先的にできるというものですね。でも当時の黄金カードとも言える羽生(善治九段)―佐藤(康光九段)戦のような対局でも、持ち時間が長い将棋は敬遠される傾向がありました。当時は二段に高野さん(智史六段)、青嶋さん(未来六段)、初段に梶浦さん(宏孝七段)、近藤さん(誠也七段)、佐々木さん(大地七段)がいて、記録は勉強になるのだから取るべきだと伝えると、みな積極的に務めてくれました。特に近藤さんは羽生先生の記録をたくさん取っていた気がします。

 いつの時代も羽生先生の追っかけ記録係はいましたね。自分が奨励会員の頃も記録を沢山とりました。特に米長先生(邦雄永世棋聖)、谷川先生(浩司十七世名人)の対局が多かった。記録係をやると学校に行かずに済むので(笑)、順位戦の記録はよく取っていました。

奨励会員にとっても「黄金カード」だった羽生善治ー佐藤康光戦 ©︎文藝春秋

――現在の将棋界は藤井聡太竜王・名人の存在を抜きには語れませんが、奨励会員にはどのような影響を与えているとお考えですか。

黒沢 やはり影響力は強いですよね。今の会員は藤井さんを見て育ってきた世代ですから。指す将棋についていうと、居飛車党が増えた気がします。また好青年が増えて、礼儀作法もしっかりしている傾向があります。

――かつて羽生九段の追っかけ記録係がいたように、藤井竜王・名人の記録を取りたがる会員はいるのでしょうか。