プロ棋士になるための登竜門ともいうべき奨励会(正式名称は「新進棋士奨励会」)。その頂点に位置する三段リーグを筆頭に厳しい戦場というイメージがクローズアップされがちだが、その内実はどうなっているのか――。幹事として奨励会に携わった中村修九段、北浜健介八段、黒沢怜生六段の座談会をお送りする。
奨励会員には「先輩の良いところを見て考えて育ってほしい」
――幹事としては、指導についても意識されていることはあるのでしょうか。
北浜 やはり関西のほうが最近なのでより記憶が鮮明ですね。最近よく勝っている藤本さん(渚五段)は11歳で奨励会に入りました。今の彼からは想像がつかないでしょうけど、元気に走りまわっていて(笑)、中学生になったら今とそれほど変わらない落ち着いた雰囲気になりました。入会時とあまりにもイメージが違うのでびっくりしましたよ。私がもっとも将棋を指した奨励会員は藤本さんのはずです。
――幹事の方が会員と指すのは珍しいのではと思いますが、どのようなきっかけがあったのでしょうか。
北浜 当時は藤本1級の頃でした。例会とは別に奨励会トーナメントがあり、そこで負けた藤本さんが私と将棋を指したいと言ってきました。彼は香川県から通っていたので「帰らなくていいの?」と確認すると「大丈夫です」と。それから指すようになりました。その頃から終盤が強く、よく負かされていたと思います。
――黒沢六段は、奨励会員への指導で心がけていることはありますか。
黒沢 疑問に感じたことは会員の意見も聞いた上で判断するようにしていますね。会員達には先輩の良いところを見て考えて育ってほしいと思っています。
北浜 関西では奨励会員と研究会を行っている棋士は多いですね。奨励会トーナメントには山崎さん(隆之八段)や菅井さん(竜也八段)がゲストに来てくださることも多く、コロナ前は1年に2回行われていました。山崎さんや菅井さんが優勝することも多々ありました。当然ですが(笑)、とくに地方に住む奨励会員にとっては、こんな素晴らしい勉強の機会はなかなかないです。
記憶に残る奨励会試験は…
――やはり、高段者と実戦を指すのは貴重なことなのですね。
北浜 あとは幹事にとって、奨励会試験という厳しい3日間があります。8月20日前後という真夏の酷暑に3日続けてです。1日目は元気よく行けますが、3日目は面接もあって、体力的につらかった。試験で一番覚えているのは、磯谷さん(祐維女流初段)と大島さん(綾華女流二段)が受けた年の話で、当時の受験者で女子はこの2人だけでした。
――奨励会試験は1次試験が受験者同士の対戦で、2次試験が受験者と現役会員の対戦ですね。
北浜 当時の1次試験は3勝2敗で通過(現在は4勝2敗)ですが、2勝2敗同士のこの2人が当たったんです。ただでさえ負けられない1局で年齢も近い。その2人が当たったらどうなったかというと、5回の千日手です。
一同 それはすごい。