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北浜 2人とも居飛車党で同じ戦型、先後問わずに同じ形を目指しているんです。気づくと千日手という感じで、盤面をみると1二にいた香車が、少し経つと1一に戻っている。「ああ千日手になったんだ」と。それが5回ですよ。とにかく負けられないんだと。今は2人とも当時より格段に強くなって活躍しているのが嬉しいですが、2人のガッツが感じられて、特に忘れられない出来事ですね。

将棋漫画に登場した「筆記試験」

――奨励会試験というと、これは私の興味本位でお聞きする部分もあるのですが、将棋漫画「5五の龍」には奨励会試験での筆記試験の内容が紹介されていました。40年以上前の奨励会を描写したものですが、今でも筆記試験はあるのでしょうか。

北浜 今は2次試験を通過した人間に作文として、目標を書かせるくらいですね。あとはその時の八大タイトル保持者を書かせるのもあります。最近は楽ですけどね(笑)。

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――確かに(笑)。

北浜 ただ、叡王の「叡」の字はとくに難しいですよね。作文では「17歳で棋士になって21歳でタイトル、24歳で名人」というとか、目標を大きく持っている子も多いです。良いことだと思います。

黒沢 そうなんですか。素晴らしい目標ですね。こちらは謙虚に「20歳で三段」というケースが多いです。関西を見習わないと。関東と関西の違いですかね。

北浜 そういう意味では微笑ましくなってきます。

北浜健介八段

――あと、漫画で描写されていたのが、主人公が4勝2敗にも関わらず、態度が悪くて不合格とされたというものでした。その前年には5勝1敗の受験者がやはり態度が悪くて落とされたともありました。

中村 5勝1敗でも態度が悪くて落ちたって、それは私が入った年に実際あった話ですよ。

北浜 私が記憶している限りでは、素行不良で不合格とされたケースはありません。ただ丸山さん(忠久九段)、木村さん(一基九段)の時代は、1次で5勝1敗の好成績を取り、2次でも1勝したのに1勝2敗で負け越したから不合格になったケースがあったと聞きました。今よりもだいぶ厳しい時代もあったのです。

「奨励会の中でも圧倒的な才能は存在します」

――現役幹事ならではのことで、黒沢六段は何かありますか。

黒沢 面白いエピソードもあるのですが、現在進行形で幹事を務めているので今は話しにくいです。彼らが棋士になった時に話すことを楽しみにしています。

中村 幹事になりたての時、退会する子が出ると感傷的になってノートにその子の名前を書いていましたが、半年くらいでやめました。きりがないこともありますが、やめた方がいい子は早くやめたほうがとも思いましたね。

 奨励会の中でも圧倒的な才能は存在します。それに対して自分じゃダメだと思ったら早目に見切りをつけた方が良いですし、逆に「強い相手と指せるのがうれしい」あるいは「なにくそ」と思えるなら続けて行ける場所です。刺激的で自分自身の勉強になった4年間でした。

黒沢 やはり成長していく姿を見るのは楽しいですね。行動やオーラが前とは違うなど、ちょっとした変化もわかるので、上がりそうな雰囲気を感じることもあります。もちろん逆の場合もありますが、誰しも通る道なので見守るしかないですね。