将棋と学業との両立について
――先ほど、少し話に出ましたが、現在の奨励会は学業との両立が切り離せないテーマになっているのではと思います。
黒沢 こちらの感覚からするとビックリすることはありますけどね。テストならまだしも、最近は学校行事を休む理由に挙げることも多く、そういう話を聞くと悲しくなってきます。例会を休むということは、棋士になるチャンスを遅らせてますからね。
北浜 試験や体育祭など単位に関わる場合はやむを得ないです。長期休会などで、よくあるのが「休むことを師匠に言ったのですか」と聞くと「言っていません」と答える子。それは、まず師匠に伝えないと、と言って決裁を保留します。師匠に伝えないなんて考えられないことですが、そういうことを教えるのも幹事の仕事の一部だと思います。特に関西は棋士室があって棋士と奨励会員が接する機会が多いので、いろいろなことに気づきやすいんです。
――棋士室のあるなしは関東との大きな違いですね。
北浜 例えば、例会の朝に私とすれ違っても挨拶しない、朝礼の時だけする。学校では、授業前に先生とすれ違ったら挨拶しないのかと聞くと「します」と。じゃあ奨励会でも同じようにしなさい、と。そういう会員が記録係を務めた時、対局者の棋士に挨拶できるとはとても思えません。もちろん、すぐにというわけではなく、1年、2年と経って徐々にできるようになれば良いと思います。学業との両立といえば、最近は受験勉強で休むという子が多いです。大学受験だけではなく、高校受験、中学受験と……。
大学へ進学した棋士
――北浜八段は大学に進学されましたね。
北浜 大学へ行った棋士は近い世代だと丸山さん、木村さん。大先輩だと加藤治郎先生(名誉九段)、加藤一二三先生(九段)、米長先生(邦雄永世棋聖)といますが、私の時代でも「なぜ大学に行ったの」と周りからよく言われました。でも今は会員の半分以上が大学に行っています。それで「受験に専念したいから休む」ということになりますが、奨励会の年齢制限があって、会員自体も増えていますから、今はそういう時代なのでしょう。
中村 絶対、棋士になれるわけじゃないからね。僕らの時代は「だったらやめなさい」という一言で片づけられてしまいましたが。
北浜 大学進学については、自分もある程度わかっているつもりなので、弟子や会員にアドバイスはします。例えば大学へ行かず将棋に集中しても、そういう環境で自分を律するかどうかでしょう。
ただ進学については、本人よりも親御さんの意向が大きい部分はあると思います。大学に行きたいのか将棋をやりたいのかと聞くと、当然、将棋をやりたいという声の方が圧倒的に多い。今は進学校に通う会員も多く、最初から国立大志望という子もいます。誰がどこの学校に行っているのかというのは自然と覚えてしまいます。
中村 現実的なことを言うと、ほとんどの子は棋士になれないわけだから、将来のことを考えると大学へ行ってもらったほうが気が楽な部分はありますね。