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フジサンケイグループ会長との面談に「一目で分かるほど酔っ払って」現れて…堀江貴文の“フジテレビ乗っ取り計画”失敗の裏側

『ネット興亡記: 敗れざる者たち』より#2

18時間前

genre : ニュース, 社会

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「待っていたよ。元気な人たちが出てきてくれて俺もうれしいよ」

 堀江は持参した資料をもとに、テレビとインターネットの相乗効果などを語った。その時の資料が今、筆者の手元にある。フジテレビが持つ視聴者へのリーチを武器に、ライブドアの課金、物販などを融合させた新たなサービス像が示されている。

 まさに堀江が説くサブスクリプション型への移行であり、それはとりもなおさず、後発組のポータルサイトとしての「ヤフー超え」の秘策でもある。そのためには起爆剤としてフジテレビの力が欠かせない。今こそインターネットとテレビで力を合わせて新しい市場を切り開きたいのだと、力説した。

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 聞き終えた奥田は上機嫌で答えた。

「そうだよな! これからはメディアもどんどん変わらないとなぁ」

 そして奥田はこうも付け加えた。

「俺から日枝さんにも言っておくよ」

冷たい握手

 財界総理からの好感触を得た堀江だったが、日枝久(編注:フジサンケイグループの元会長)との間の溝が埋まることはなかった。これには堀江側にも責任があった。それは奥田との会談が実現するより少し前の3月初旬のことだった。

 急遽決まった日枝と堀江との初めてのトップ会談。その日、堀江は部下の結婚式に出席していた。タキシード姿のままで現れた堀江は一目で分かるほどアルコールが入っていた。堀江も後日、この時は「かなり酔っ払った状態だった」と認めている。「急に決まったアポだったので、やむなくそうなってしまっただけの話」とも言うが、これでは日枝ならずとも話にならない。

 日枝が怒りを押し殺していたことは想像に難くない。「フジテレビのTOBに応じる形でライブドアが保有するニッポン放送株を売ってほしい」と伝えても、堀江は「なんで売らないといけないんですか」と言い、取り付く島はない。トップ会談はそのまま平行線に終わった。財界に絶大な影響力を持つ奥田が仲介してくれたところで、もはや両者が歩み寄る余地は残されていなかったのだ。

 事態の趨勢が決したのは、3月24日のことだった。SBIホールディングスを率いる北尾吉孝がホワイトナイトとして登場し、ニッポン放送が保有するフジテレビの株式を5年間、SBIに貸すことになった。

※画像はイメージ 写真:mapo/イメージマート

「資本市場には清冽な地下水が流れている。これを汚すことは許せない」

 メディア各社のインタビューに応じた北尾が毎回のように口にしたのが、自身の出身母体である野村証券を日本の証券市場の中心的存在へとのし上げた北裏喜一郎の言葉だった。北尾の「正義」はともかく、フジテレビがこれで難を逃れたことは間違いない。

 結局、ライブドアとフジテレビは互いに相いれることのないまま、曖昧な決着を選ぶことになった。ライブドアが持つニッポン放送株をフジテレビが買い受けるのに加え、フジテレビはライブドアが実施する第三者割当増資を引き受けて12.75%を出資することになった。ライブドアには1500億円近いカネが流れ込むことになる。

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