しかし、「娘は結婚して退職・離職するだろう」という前提は、難関大学に進学した場合でも正しいのでしょうか?

「東大卒業生のキャリアに関する調査(*2)」によると、結婚・出産を経験しているであろう1981~1990年生まれの女性のなかで、パート・アルバイトや派遣社員・契約社員等の割合は10%にも満たず、ほとんどの女性は正社員や役員・経営者として働いています。つまり、先の前提が常に正しいとは限らないのです。

*2 本田由紀『東大卒業生のキャリアに関する調査』2023年

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写真はイメージ ©AFLO

保護者にこそ変化を

 これまで述べてきた通り、私たちは保護者の差別的なジェンダーステレオタイプが女子学生の進路選択の幅を狭めていると考えており、そういった意識を変えたいと強く思っています。

 2022年に東京都によって行われた「性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する実態調査」によると、児童・保護者・教員のうち、「性別で向いている仕事と向いていない仕事があると思う」「男の子/女の子だからと思うことがある」などについて、保護者が特に「そう思う」割合が高かったそうです(図表6—2)。保護者のジェンダーステレオタイプがいかに根強いものであるかがわかります。

 子どもは、親の教育期待の影響を受けるだけではなく、価値観や考えも継承します。親から子へとジェンダーステレオタイプは受け継がれていき、さらにその子どもへの教育期待の偏りとなって現れます。この負の連鎖は、強い覚悟を持って、ここで断ち切らねばなりません。

「性別に基づくアンコンシャスバイアス」(ジェンダーステレオタイプやバイアス)の解消の必要性については国も認識しており、「女性版骨太の方針2023」にはアンコンシャスバイアス解消のための取り組みがいくつも含まれています。しかし、残念ながらそのほとんどが企業の管理職や学校の教員等を対象にしたものであり、保護者へ働きかける必要性については全く触れられていません。「法は家庭に入らず」という格言があるように、行政が家庭に入っていくこと・保護者にアプローチすることは非常に難しいことだとは思いますが、事の重要性・喫緊性を鑑み、今後の取り組みを期待します。