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「福岡県内の大学に行かないのなら就職しなさい」とまで言われていたCさんですが、自らの強い意志で親に無断で広島大学総合科学部を受験し、合格することができました。しかし、県外での一人暮らしとなったCさんは、学費の一部は祖母から出してもらっているものの、その他の学費や生活費は全て奨学金とアルバイトで賄っているそうです。一方で、首都圏の私立大学薬学部に通うCさんの兄は、学費も仕送りも、保護者が負担しています。Cさんが頑張って貯めたアルバイト代から、兄への仕送りが引き出されることもあるそうです。また、わずかながら学費を出してくれているCさんの祖母は、門限を18時としたり、髪の毛を染めてはいけないといった厳しい規律をCさんのみに課しています。

 Cさんが、このような家庭の状況がおかしいということに気がついたのも最近のことだと言います。Cさんの家庭は親戚も含め先祖代々同じ地域に住んでおり、親戚で大学に進学した女性も、福岡を離れた女性も一人もいません。「女性が大学に行く必要はない」という価値観を小さい頃から刷り込まれて育ったCさんは、首都圏の大学のオープンキャンパスに行くことでさえ、「どうせダメだろうな」と思い、言い出せなかったそうです。

 この時代にこんな家庭があるなんて、私たちも聞いて驚きを隠せませんでした。Cさんはたまたま強い意志を持っていたため、広島大学に進学することができましたが、従順で疑問を持たない学生であれば大学に進学していなかった可能性もあります。ここまで極端な事例は多くはないかもしれませんが、女子に男兄弟ほど教育投資をしないという家庭は少なくないでしょう。家庭の事情でどちらかしか私立に進学できない/東京に進学できない、などとなった場合に男兄弟が優先されるケースは残念ながら、未だに少なくありません。

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男子学生に投資した方が「得」なのか

 実は、この「教育投資のジェンダーギャップ」という問題には、「女性は結婚して離職する」という前提に立つと、女子学生よりも男子学生に投資した方が経済的という実状が潜んでいます。

 OECDの調査によると、日本の高等教育修了者の私的正味収益(大学卒業後の生涯年収から、大学の学費や高卒で働いていれば得られたであろう収益などを引いたもの、つまり大学進学によって個人が総合的に得られる経済的な利益のこと)は、女性が男性のおよそ9分の1で、この男女差はOECD諸国の中で最も大きいそうです(*1)。

*1 三宅えり子『日本の高等教育政策とジェンダー:教育投資のあり方にみるジェンダー主流化の課題』2018年

 これは女性が結婚や出産を機に離職したり、非正規雇用に切り替えたりするケースが多いことが要因として考えられ、これ自体が解決するべき問題です。これにより、保護者が「娘は結婚して退職・離職する」という前提に立っている場合、男女の子どもがいても、息子の方によりお金をかけることは、一見合理的な判断に思えます。