あれ見た時には「乙丸、強え〜!」って

 結局、紫式部ってどんな人だったのかな。それはいまだに考えています。何歳で亡くなったのかも、どんな亡くなり方をしたのかも分からない。たぶん視野が広くて洞察力を備えた女性だったんだろうけど、決して明るくはなかったとも思います。うーん……何と言うか、自分を信じてあげる力が強かったのかな。なにしろ『源氏物語』は全部で54帖もある。彼女から何を一番感じるかと言ったら、あれほど長いストーリーを書き続ける信念の強さですね。

「光る君へ」の一場面(NHK提供)

『源氏物語』は、まだ終わっていないような結末の迎え方で、紫式部はもっともっと書きたかったのか、それとも急に書くのが嫌になったのか、そんな思いを巡らせながら読むんですが、でも、一つのことをずーっと好きで続けられる人ってなかなかいないじゃないですか。

 現代の世界でも、今やっている仕事を、「このまま続けられるかなあ」と不安になったり、すごく楽しくて「もっとやりたい」と前向きになったりする時期がありますよね。私もそう。紫式部もきっと同じように揺れ動きながら『源氏物語』を書き続けたはず。それに彼女は日常に転がっている、小っちゃな感情の起伏をきちんと拾い集めて、客観的な目線で文字に表現することができた。きっと、そんな女性だったんだと思いますね。

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 それに比べて、私が演じる主人公のまひろはもっと不器用! 上手くいかないことが多すぎて、めげてばかり。でも、とにかく折れないんですよね。

 第16回で、都に疫病が蔓延するなか、まひろが感染者たちが集まる悲田院に行って、知り合いの少女を必死で看病する場面があります。その少女も亡くなってしまって、悲しみに暮れながらも、まひろはその場に留まり、他の感染者たちの看病を続けるんですね。私もテレビの前で「早く帰りな!」と何度思ったことか。結局、まひろも感染してしまうんですが、そういうところに、まひろの折れない心の強さは表れていると思います。

スタジオの前室にて笑顔の吉高さん。壁に貼られている「吉高さん頑張れ」「毎週楽しみです」といった視聴者の応援コメントが力の源に ©文藝春秋

 あの場面、矢部太郎さん演じる従者の乙丸だけが、あんなにヒョロヒョロなのに、ひとり感染せずに最後までピンピンしてたでしょ。あれ見た時には「乙丸、強え〜!」って驚きましたね(笑)。

本記事の全文は「文藝春秋」2024年9月号と「文藝春秋 電子版」に掲載されています(吉高由里子「紫式部のセリフに「噓でしょ⁉」)。グラビア連載「日本の顔」では、吉高由里子さんの舞台裏を撮影した写真を掲載。あわせてお楽しみください。