ステージ4のがん患者となったベテラン医療ジャーナリストが読者に伝えたいこととは――。前立腺がんの治療を続けながら執筆を続ける長田昭二氏(59)は、がん治療の過程でさまざまな身体上の変化を覚えてきた。たとえば、爪や毛などはどのように変化したのか。その内実を解説する。

抗がん剤治療を受ける前の長田昭二氏 ©文藝春秋

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爪に“年輪”のような縞模様が

 長く続いたわががん治療も、いよいよ最終盤に差し掛かったことになるわけで、込み上げてくる感慨のようなものがあるかな……とも思うのだが、特にない。というのも、置かれた状況が深刻なわりに体は元気で、こうして普通に仕事もしているし、誘われればホイホイ飲みにも出かける。以前に比べれば酒の量も食べる量も格段に落ちてしまったが、事情を知らない人が僕の飲み食いするところを見て

「あなた、がん患者ですね!」

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 と言い当てることはないだろう。

 早い話が「元気」なのだ。

縞模様ができた筆者の爪(筆者提供)

 ただ、体にはいろいろな変化が生じている。特にドセタキセルの投与が始まってからは、身体上の変化は著しい。

 これまでも書いてきた通り、幸いにも「吐き気」や「嘔吐」などの消化器症状を伴う副作用は最小限で済んでいる。2度ほど「激烈なめまい」を経験したが、これも最近は起きていない。

 目立たないところでは、「爪」に異変が生じている。手の指の爪に“年輪”のような縞模様ができているのだ。これは抗がん剤の影響で、爪母(爪の根元にある爪を作り出す組織)がダメージを受けることで起きる現象。抗がん剤を投与した時にダメージを受け、その時だけ爪が白くなる。その後また正常な爪を作っていくので、結果として爪に「白い縞模様」ができていくのだ。

 僕の場合は見た目に縞模様ができただけで、剥がれたり割れたりという症状はないので助かっているが、長期間の抗がん剤治療で爪がボロボロになったり、根元から剥がれ落ちてしまう人もいるという。

「元カツラ」と思われるのも……

 頭髪については、脱毛に備えて短くしてしまったので分かりにくいが、髪の毛の量は大幅に減っている。スキンヘッドにこそならなかったものの、このまま髪を伸ばしていたら「落ち武者」になるのは明らかなので、いましばらく短髪にしておこうと思う。

 困るのは、久しぶりに会う人で、しかも僕ががん治療を受けていることを知らない人だ。「医療ジャーナリスト」として取材活動をしている僕は、毎日のように医師に会って話を聞いているのだが、その窓口となるのは病院や大学の広報担当者。久しぶりに会う以上「少し老けたわね」と思われるくらいならいいのだが、僕の見た目の激変ぶりは確実に先方を驚かせる。頭髪のことはもちろん、ホルモン治療の影響もあって顔と体が浮腫んで(太って)しまっている。どう見ても

「お元気そうで」

 と声をかけることが憚られる変化なのだ。

 中でも頭髪については、「薄くなった」と思わずに、

「あら、この人カツラだったのかしら。何かの事情があって外したのね。まあ、どうしましょう……」

 といった表情で困惑している人もいる(僕が勝手にそう思っているだけなのだが)。こうなると、どう声をかけていいやら困るのだ。冗談が言い合える間柄の人ならまだしも、単に取材の段取りをしてもらうだけの人に、

「いやあ、じつは僕、前立腺がんでしてね。抗がん剤で髪が抜けちゃったんですよ、エヘヘ……」

 と釈明するのも面倒だし、ミジメだ。だからと言って「元カツラ」と思われるのも、それが真実ではないだけに心外だし、やはりミジメだ。化学療法とホルモン治療による容姿の変化は、患者に何かとミジメな思いを強いるのだ(個人の見解です)。