『水曜日のダウンタウン』は自分のできない領域
―― 芦田さんは普段、どんな番組を見ているんですか?
芦田 ドキュメンタリー系はかなり意識して見ていますね。『あいつ今』に還元できるものもたくさんあるので。だから、『家、ついて行ってイイですか?』とか『ドキュメント72時間』とか『YOUは何しに日本へ?』とか、『ザ・ノンフィクション』とか、一市民をどう興味深く描いているか、その演出方法を見てます。あと、『あいつ今』がゴールデンに上がってから特に他の番組の視聴率を細かくチェックするようになりました。「俺は面白いと思ったけど、7%なんだ」とか、「これ、そこまで面白いと思わなかったけど10%台行くんだ」みたいな。視聴率って翌日結果が出るので、毎日自分の感覚と世間の感覚とを「答え合わせ」してます。勉強に近い感覚がありますね。
―― バラエティはどんなものを見ますか?
芦田 『全力脱力タイムズ』は最高に面白いし、『ゴッドタン』は学生時代からずっと好きですし、『水曜日のダウンタウン』はやっぱりすごいですね。
―― 『水曜日』では『あいつ今』のパロディー企画もやっていましたよね。
芦田 とても光栄でした。僕は(『水曜日のダウンタウン』演出の)藤井健太郎さんに面識は全くありませんが、一視聴者として「藤井スタイル」大好きで楽しんでます。でも、絶対に自分にはできないんですよね、あの演出方法は。
―― どういうことですか?
芦田 藤井さんは『悪意とこだわりの演出術』って本でも書かれていましたが、まさに悪意というか、たまに「やりすぎじゃない?」って思うような人を小バカにするような演出を完璧に振り切って企画を仕上げますよね。あれは、自分にはとてもじゃないけどできない領域で、尊敬と同時に驚きや恐怖すら感じることが多々あります。
「ゼロイチ」を楽しみながら達成できるのはテレビしかない
―― そういう意味で、嫉妬しちゃう番組ってありますか?
芦田 嫉妬というか、心の底から凄いと思うのは『イッテQ!』。情報性なしの笑いメインで、日曜夜8時のゴールデンで20パーセント取るって、これはテレビマンの夢ですよ。もちろん『鉄腕!DASH!!』っていう素晴らしい番組のパスを受けて放送が始まるという、番組編成上の土台はあると思うんですけど、毎週18~20%取るって驚異的です。しかもあれ、演者も出演して損しないですから。過酷なことさせて、追い込んでいるように見えるけど、愛情のある編集をしている。手越(祐也)くんをあれだけ愛らしく見せられるのは、編集の技も大きいと思います。演出の古立(善之)さんは、本当にすごいなと思いますね。
―― 制作者である以上、視聴率には向き合わなければなりませんよね。でも数字ってストレスになったりしませんか?
芦田 それはもちろんあります。数字だけがすべてじゃないじゃん! とはもちろん思います。でもやっぱりテレ朝の社員である限りは、「数字なんてどうでもいい」って言っちゃいけないと僕は思うんですよ。やっぱり会社のお金=給料をもらって作らせてもらってるわけじゃないですか。で、営業の人たちが汗水流して勝ち取ってきた予算を、制作の我々はもらって使うだけ。だから、予算をもらっておきながら「結果残さなくていい」っていうのはさすがに言えないですよね。しかも『あいつ今』でいうと、約50人のスタッフがいるんですよ。その人たちの給料もその予算から支払われてる。僕が「別に数字なんて取らなくていい」みたいな2年目ADみたいなトガリを出して、番組終わっちゃったらどう責任取るんだと。だから、「数字を取る」ということに対して否定的な感情はなくなってきてますね。
―― 就活の時にテレビ局以外の3つの企業(総合商社、広告代理店2社)から内定をもらって最後まで悩まれたそうですが、今でも「そっちに行ってたら」みたいなことって考えたりしますか?
芦田 全くないですね。
―― テレビが良かった?
芦田 実際に他の3つで働いてないんで実態はわからないですけど、まさに進路に悩んでいた就活中に当時『ロンハー』でCPをやっていた板橋(順二)さんに言われた言葉を今でも鮮明に覚えているんですが、「芦田、テレビと代理店と商社の大きな違いは分かるか?代理店と商社は1から100、1から1億という付加価値を付ける業界だけど、テレビはゼロからイチを作るんだ。お前はどっちがいい?」「ゼロに何かけてもゼロだけど、俺らはそのゼロを1にできるんだぞ」と。名言出たぞって思いましたね(笑)。冗談じゃなく、これは真理だと思いました。今でも鮮明に覚えているほどです。だから、板橋さんには感謝してます。たまに廊下であったら声かけてくれます。「うち来て正解だったな」って。『あいつ今』が当たったときも喜んでくれたんですが、まさに板橋さんがおっしゃっていた「ゼロイチ」を楽しみながら達成できるのはテレビしかないと思うので、進路への後悔はありません。