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世界にこだまする#MeTooの声

 本書に綴られた一連の報道が明るみに出てから今年で七年。いまでも#MeTooの声は世界各地にこだましている。日本では二〇二三年に、それまで報じられても大きな動きにはならなかった芸能界の大物・ジャニー喜多川による性暴力事件が、BBCの報道をきっかけに大きく動くことになった。

『キャッチ・アンド・キル #MeTooを潰せ』解説より

 しかしこのケースは、一九九九年に週刊文春がジャニー喜多川の性的加害について報じたものを再度検証、そしてさらなる取材を重ねて世に問うたものであった。当時、ジャニー喜多川とジャニーズ事務所は、名誉棄損で文藝春秋側を訴えたが、性的加害(当時はセクハラと記されている)については最高裁まで争って文藝春秋が勝訴。にもかかわらず、他のメディアは後追い取材をするわけでもなく、ジャニーズ事務所に対して特別な対応もされず、結果として、その後も加害が終わることはなかった。

 今回のBBC報道が大きな反響を呼んだのは、#MeTooにより、世界的に性的暴力を許さない土壌が出来上がりつつあったことも後押ししているに違いない。

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 この事件は、大手芸能事務所の隠蔽行為、長期にわたるマスメディアの沈黙など、ワインスタインのケースとの類似点が多いが、日本でも加害者だけでなく、それを守ってきた周囲のシステムについて、もっと多くのことが報じられるべきであろう。

 本書は、単なるジャーナリズムについての書籍ではない。多くの女性の痛ましい歴史と、それに立ち向かう真摯な言葉が詰まった未来へのメッセージなのだ。正義を追求するこの物語は、私たちは一人ではなく、共に立ち上がり、声を上げれば社会は変えられることを証明してくれている。

 一歩進んで、また押し返されたとしても、ここに刻まれた言葉は一生消えることなく私たちの心に残り、確実に社会を変えたのだから。

 この文庫版の刊行を通じて、より多くの人々が『キャッチ・アンド・キル』を手に取り、調査報道の重要性、権力や大企業という大きなシステムに屈しない著者の姿勢に触れることを願う。(文中敬称略)