宇垣美里さんが選りすぐった傑作マンガの数々を熱量たっぷりに評する「週刊文春」の連載「宇垣総裁のマンガ党宣言!」より、『同人女アパート建ててみた』について綴った回を特別に掲載します。
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付き合いの長い友人たちと飲むたびに、おばあちゃんになったら絶対に同じマンションに住もうな、という誓いを立てあっている。たとえ結婚していようとしていなかろうと、子どもがいようがいまいが、人生の最後は支え合って面白おかしく生きていこう、と。全員一人の空間が必要なタイプだからシェアハウスじゃなくて、一部屋一部屋が独立した同じマンションの方が気兼ねしなくていいかも……なんて希望まで。『同人女アパート建ててみた』はそんな私たちにとってまさに理想の住まい!というか、こんなのいつの世もどの世代の女にとってもロマンそのものでは?
新築の“同人女アパート”が無事完成。ところが…
銀行員であり同人活動に励むオタクのA子には夢があった。それは、同人活動か創作活動をやっている女性限定のアパートを建てること。学生時代ひとりでオタク生活を送っていたA子は、皆で同じ空間で原稿を書いたり、一緒にアニメをリアルタイム視聴したりする、いわゆるオタクライフになみなみならぬ憧れがあったのだ。
実家所有のボロアパートと土地を担保に5000万円の融資を受けて、新築の“同人女アパート”が無事完成。ところが、A子の掲げた特殊な条件と相場より高めな家賃設定のため、入居者ゼロでスタートしてしまうことに。はたしてA子は初志貫徹し、同人女アパートの大家となれるのか。
共用スペースには複合機や人体工学に基づいたイス、無線LANも完備してある最強の原稿部屋だけでなく、なんちゃってライブビューイングやゲームも大画面で楽しめるホームシアタールームも併設。創作系オタクにとっては夢の城のようなアパートの描写に思わずうっとり。私自身は同人活動こそしていないが、彼女たちと同じくらい〆切に追われている身、おまけに重度のオタクなので、この物件の良さは痛いほど分かり、共感が止まらない。誰かと一緒なら黙々と頑張れるのに、一人だと気づいたら延々とネットの海を徘徊しちゃってること、あるよね……。
同人活動や大人オタクならではのあるあるはもちろんのこと、ローンの支払いや家賃収入などの不動産経営で直面する問題も学ぶことができる本作。夢の実現を前に立ちはだかる現実はなかなかに世知辛い。が、そんな中でA子の夢を応援する同人仲間たちや、仲間のサポートのおかげもあって集まった入居者たちの間に生まれる女性同士の緩やかな連帯が眩しく映る。性格や好きなジャンル、それぞれの同人活動の出力方法は違っても根っこは同じな彼女たちの会話を、いつまでも聞いていたいと思えた。
作品の設定は2011年あたりとのこと。そこから推察すると登場人物たち各々のハマっているジャンルのモデルがなんとなく見えてくるところも楽しい。
いくつもの困難を乗り越え、無事満室となった同人女アパート。肩の荷が下りてようやくイベントに出かけることができたA子だったが、そこで新たな問題が発覚する。不穏なラストにハラハラし、どうか私たちの将来の夢そのままの同人女アパートが無事運営されていきますように、と神を拝みながら次巻を待っている。
(「週刊文春」2024年4月11日号掲載)