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三島賞の賞金100万円を、ダービー単勝1点勝負に突っ込んだ

―― サンスポの競馬予想連載(「こんなにはずれちゃダメかしら」)、すごく長いじゃないですか。

高橋 88年の秋からやってますから、もう30年ですね。しかも、一回も休んでないんです!

―― おお!

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高橋 FAXさえない時代には海外から電話で原稿を送ったこともありますよ。

「こんなにはずれちゃダメかしら」をまとめた『競馬探偵の憂鬱な月曜日』など

―― 電話で?

高橋 「アは愛情のア」みたいに一字一字担当者に口頭で伝えるの。600字とか結構な分量の文章を国際電話で。めっちゃ電話代がかかる(笑)。

―― 88年に『優雅で感傷的な日本野球』で第1回三島由紀夫賞を受賞されますよね。その賞金をダービーに突っ込んだという逸話があるんですけれども、あれは本当ですか?

高橋 本当です。それで「そんなバカなやつがいるんだ」ということでサンスポの連載が始まったんです。

―― それがきっかけなんですね。

高橋 三島賞の発表の日に、『FOCUS』の記者が来てたんです。それで受賞が決まって、「賞金100万円どうしますか?」って言われたから、翌週がダービーだったから「ダービーの馬券買います」って言ったら、「取材させてください」という話になって。『FOCUS』の取材下で100万円、単勝一点勝負。

 

―― えーっ、そうだったんですか。

高橋 半分冗談で言ったんですよ。そうしたら、本当にやるハメになった(笑)。で、第55回日本ダービー。僕はメジロアルダンっていう馬の単勝を100万円買ったんです。これが6番人気で、単勝11倍ぐらい。複勝でも330円。で、今でも覚えてるんですけど、最後の直線でサクラチヨノオーが先頭に立ったところ、岡部幸雄のメジロアルダンが抜いて先頭に立ったんです。そうしたら、ゴール前で差し返された。日本ダービーってこれまで80回ぐらいの歴史があるんですけど、いったん抜いた馬が差し返されたって歴史上この一戦だけ。ああいうレースでは、差し返す余力はなくて、抜いたら抜かされることはないはずなんですよねえ。

―― それがよりによって。

高橋 クビ差の2着。もしそのまま勝ってたら1100万ぐらいになった。

―― うわ~。

高橋 それがパー。まあ逆に当たってたらサンスポの連載してなかったわけだから。

寺山修司が教えてくれたこと

――あの連載では、いまだに高橋さんの肩書きのところに「三島賞作家」と入っていますよね。すでに谷崎賞なども受賞されているのに。でも、そういう因縁があるのかと合点しました。

 

高橋 まあ、それは今さらデザインを変えるのも面倒臭いってだけなんじゃないかな(笑)。

―― 競馬する文学者といえば寺山修司がいますが、高橋さんは寺山修司の影響は受けていますか?

高橋 寺山さんは僕たちの中学の頃からのアイドルというか、アイコンですよね。あの人も詩を書いて、短歌、劇、評論、小説、テレビ、映画……。要するに全部やっていた。だから、すごく親近感があるというか、僕たちにとって非常によく分かる存在でした。いわゆるマルチに活動するという人の先駆けですよね。彼の場合は詩がいい、短歌がいいんじゃなくて、「何でもやる」こと自体がいいんだと、僕たちに教えてくれました。ジャンルの越境者、解体者として憧れを持つ人ですね。