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駅伝は「メンタル」こそが勝負を分ける

――2025年の第101回大会についてはどこに注目されていますか。

 出雲に続いて、全日本大学駅伝も國學院大學が勝ったことで、前大会で優勝した青山学院はすごく危機感を抱いているでしょうね。当然、駒澤大学もこのまま黙っているわけではないし、この3強に創価大学も絡んでくるかどうかでしょう。予選会トップの立教大学は上位は難しいと思うけれど、むしろ予選会をエース二人を温存して通過した、中央大学がいいところに入ってくるかもしれません。

 國學院大學には、平林(清澄)君というエースがいますが、大阪マラソンに初挑戦して優勝という成功をしたでしょう。このことがチームにとってもいい影響を与えたと思います。マラソンは日々すごく辛い練習をしていても、結果に繋がらない選手もたくさんいるし、故障してしまうことだってあります。それでも平林君のようにふだんの練習からみんなに声をかけて引っ張っていくような、リーダーシップの非常にある選手が結果を残すと、自分たちのやっていることが間違っていないんだ、と信じる気持ちが強くなる。出雲でも全日本にも勝って、メンタルの部分がさらに良くなっているはずです。

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第36回(2024)出雲全日本大学駅伝大会で優勝のゴールテープを切る國學院大學の平林清澄選手

 駅伝というのはとにかくチームワークが大事で、自分が走りたいから足の引っ張り合いをするときも場合によってはあります。そうしたらお互いが次々に疑心暗鬼になって、もうそれは弱いチームです。逆に「あいつのために頑張る」「こいつのために頑張る」ができるのがいいチームですけど、その場合でもトップの選手がもっと速くなるということではないんです。下の方の選手が底上げされたのがプラスアルファになるというか、100の力を出せたらいいところを、下の方の選手が120くらいの力を出すようになる。それが箱根駅伝では本当に大きな力になるんですね。

 池井戸さんも作中で「メンタルが7割」と書かれていましたけど、長距離を走るのは苦しさにずっと耐えなきゃいけない。僕だっていまだにフルマラソンを走るのは辛いんです。ましてや箱根駅伝は20キロ以上を全力疾走状態ですから、もしかしたらメンタルが8割といっても過言でもないくらい。マゾみたいというか……いやまあマゾなんですけれど(笑)、そこまで自分を追い込むことに喜びを感じるようになるときもあります。駅伝に強い選手は、ほかの誰かのために頑張るという気持ちによって、自分の力を最大限に引き出せる選手ですね。

 箱根駅伝が終わるまでお正月が来ない生活を、かれこれ40年も続けていますけど、これは走るのも、見るのも、喋るのも大好きだし、長距離選手はスタミナがあって、エネルギーもまだまだあります。これからも箱根駅伝と関わっていきたいと思います。

 

1964年福岡県北九州市生まれ。中学から陸上競技を始め、早稲田大学では4年間箱根駅伝で山登りの5区を走り、85年には同区間で新記録を樹立、早稲田の2連覇に貢献した。86年リクルートに入社後、ランニングクラブを創設。87年別大マラソン3位、89年東京国際マラソン3位など選手として活躍。92年に小出義雄監督率いる同クラブのコーチとなり有森裕子など、数々のオリンピック選手を指導した。95年監督に就任。2002年NPO法人ニッポンランナーズを創設、一般市民ランナーやプロアスリートの指導にあたっている。テレビやラジオの駅伝・マラソン解説者としても知られ、最新刊に『厚底シューズ時代の新・体幹ランニング』。

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俺たちの箱根駅伝 下

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