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“偉大な父親”と“ろくでもない親分”

『ゴッドファーザー』や『バラキ』(72年、テレンス・ヤング監督)に影響を受けて作られたのが、戦後の広島を舞台に起きた暴力団抗争を描いた『仁義なき戦い』5部作(73〜74年、深作欣二監督)で、「戦後日本の裏面史」として高い評価を得た。最もリリシズムが漂うのが第1作。最も観ていてアドレナリンがほとばしるのが第4作の『頂上作戦』である。第4作では誰が味方か敵かが判然としないまま銃弾が炸裂し、内戦を経験していない近代日本で本格的な市街戦が行われる。登場人物の中で出色なのは金子信雄が怪演する「山守義雄」。山守は狡猾卑劣な親分で、恫喝、泣き落とし、奸計を自在に駆使し、対立するやくざのみならず、子分をも次々殺してゆく。

 偉大な父親を継承する息子の物語である『ゴッドファーザー』に対し、ろくでもない父親(親分)を殺そうとしながら果たせない息子(子分)の無念の物語が『仁義なき戦い』である。ここには権力者は「仁政」を施してくれると信じて盲従する、日本人の「自発的隷属」が痛苦とともに描かれている。

『仁義なき戦い』

 笠原和夫が書いたこの諧謔劇に我慢がならなかったのが同じ脚本家の高田宏治。高田は、親分を追いつめ撃ち殺す『新仁義なき戦い 組長最後の日』(76年、深作欣二監督)を書く。この作品では女性(松原智恵子)の役割が『仁義なき戦い』5部作より大きく、女性の助力により主人公(菅原文太)は復讐を遂げられる。80年代以降の『極道の妻(おんな)たち』シリーズを始めとする女性アウトロー映画の先駆的作品だ。

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