犯罪は変異していくコロナウィルスのようだ――。犯罪の位相をとらえる際、ウィルスに例えたのが『特殊詐欺と連続強盗』(文春新書)である。

 特に、昨今猛威を振るう、特殊詐欺などのような経済犯罪は色々な表情で我々の前に現れる。その時の経済状況、法律の改正や新法の施行、ネットなどツールの進化、そして暴力団や準暴力団(半グレ)など裏社会の変化など様々な要素によって犯罪の位相が変わっていく。そこを踏まえておけば次なる犯罪が我々の前にどのように現れるのか、ある程度推測や解析が出来るというものだ。

歌舞伎町で見つけた〈地面師にご注意ください〉

 5年くらい前、新宿・歌舞伎町の職安通り沿いの土地の一角で、こんな立て看板を見つけた。

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 【告 この土地は売り物ではございません。地面師にご注意ください。所有者】

 地面師とは、主として土地の所有者に成りすまし、勝手に売買契約を結ぶなどして、その土地や購入希望者のカネを騙し取る詐欺師のことだ。多くの場合、偽の所有者を演じる役や、売却話に真実味を持たせるブローカー役など、複数人が組んで活動していると見られる。

©AFLO

 地面師の存在が世間の注目を集めたのは、2017年に、大手住宅メーカーの積水ハウスが地面師グループに土地の購入代金として55億5000万円を騙し取られた事件がきっかけだった。ネットフリックスの話題作『地面師たち』はこの事件をモデルにしている訳だが、積水ハウスが偽の売買契約に基づいて申請した登記が認められなかったことから、詐欺であることが発覚した。

 その一方、所有者がまったく気づかないうちに、地面師によって土地が転売されてしまった事件もある。

 買い手もまた、地面師に騙されていたとなれば、土地所有権の原状復帰は裁判を経なければならず、本物の所有者と買い手の双方に損害が生じる。地面師が、不動産のプロであることは間違いない。売買慣行や関連する法令を知り尽くしているからこそ、関係者全員を騙すことができるのだ。