先日、主演した『神の雫/Drops of God』が国際エミー賞を受賞した俳優・山下智久さん。その山下さんが尊敬してやまないと公言する、日本を代表する演技派俳優・山﨑努さん初の自伝『「俳優」の肩ごしに』(文春文庫、1月4日発売予定)が発売されます。山下さんはこの文庫版に「努さんのこと」と題した文章を特別寄稿しています。
二人の初共演は2006年のドラマ『クロサギ』で、このドラマをきっかけに急接近。その後も『最高の人生の終り方』(2012年)、『正直不動産』(2022年)と共演を重ねました。
『正直不動産』の特別番組「正直不動産 感謝祭」では、サプライズで山﨑さんから山下さん宛の手紙が読まれました。記されていたのは「また一緒にやろう」という約束から10年ぶりの共演への感謝、「演技は楽しまなければ意味がない」という俳優としての哲学、そして「もう10年は待てないが」という再共演への期待……。手紙を読んだ山下さんは「努さんの字だ」と驚き、感極まって涙し、「僕があるのは本当に努さんのおかげ」と述べました。二人の師弟愛や絆は、ファンのみならず多くの視聴者に知られ、大きな感動を呼んでいます。
今回、文庫に収録されたその特別寄稿の一部を、文春オンライン独占で初公開します。山下さん自身の言葉で「努さんのこと」がどのように綴られているのか、ぜひ注目してください。
(※この先は『「俳優」の肩ごしに』文庫版、電子書籍文春文庫版に収録された文章です。文庫版、電子書籍版で初めてお読みになりたい方は、ここから先はご注意ください)
特別寄稿 努さんのこと
山下智久(俳優)
(前略)
努さんと初めてご一緒したのは、二〇〇六年のドラマ「クロサギ」。当時、二十一歳だった僕にとって初のゴールデンタイムのドラマの主演で、この作品での努さんとの出会いをきっかけに、価値観が大きく変わりました。
当初、努さんはあまり挨拶も返してくれませんでした。今思えば、僕がどのような人間かを見定めていたのかもしれません。
僕自身も、「俳優・山﨑努」の本当の凄さを知らなかった。世代的に大きく離れているというのもありますが、映画デビュー作「大学の山賊たち」や、「天国と地獄」「タンポポ」などの作品も恥ずかしながら観たことがなかった。「大先輩と共演できる喜び」よりも、「なんだか怖いオヤジだな……」という気持ちが勝っていたのが正直なところです。
ある日、第一話のオンエアが終わった後、撮影所の廊下でいつも通り「また、返事をしてもらえないかもな」なんて思いながら「おはようございます」と挨拶したら、努さんは親指を立てながら、ただ一言、「グー!」
これは、もしかしたら「第一話、良かったな」ということなのではないか――。
痺れましたね。喜びのあまり、その場で跳び上がりたい衝動を抑えるのに精いっぱいでした。
(中略)
「才能あるよ、キミは」
そう声をかけられたのは、「クロサギ」が終わってすぐの頃。一瞬、聞き間違えたのではないかと思った後に、心が震えるほどの感動を覚えました。
努さんがそう言ってくださったのだから、きっとどうにかなる。
それは度胸につながり、他の現場でも思い切って演じることができるようになった。「クロサギ」での共演がなければ、今日の僕はいない。今、僕が仕事を続けていられるのは、努さんのおかげです。(後略)