闇の政府=ディープステイト
ミシガン州に住むマイク・ピニュースキー(52)は、「トランプを110%支援する」と言い、「この選挙は民主党と中国共産党によって盗まれた」と私に語った。
「民主党と中国共産党がグルになって、アメリカの行く手を阻んでいるのは明らかだ。どこからの情報かって? ユーチューブやフェイスブックで探せば、いくらでも情報は見つかる。共和党は“闇の政府(ディープステイト)”に支配されているんだ。それは、今に始まったことじゃない。(2001年に起きた)9・11の同時多発テロも、当時の政権が国民を支配しやすくするために仕組まれたんだ」
私が、当時はトランプと同じ共和党政権のジョージ・W・ブッシュが大統領であったことを指摘しても、
「そうさ、ブッシュもディープステイトの一員だったし、トランプに散々歯向かったジョン・マケイン(2008年の共和党大統領候補、2018年没)も、同じだ。トランプはこの4年間、ディープステイトという悪魔のような存在からアメリカを守るために戦ってきたし、その戦いはあと4年続くべきなんだ」
という答えが返ってきた。
トランプ信者も斎藤応援団も、既存のメディアに不信感を抱き、ネットで“真実”を探すうちに“覚醒”した点で一致する。その後に話を聞いた斎藤応援団のほとんどがテレビや新聞などの既存メディアを信じず、敵意に近い悪感情を抱いていたことが強く印象に残った。
そこには、トランプ信者がトランプに盾突くマスコミをフェイクニュース呼ばわりするのと同種のメンタリティーがあった。斎藤応援団にとって大切なのは、事実よりも、たとえフェイクであったとしても自分が信じたいと思う情報だった。
私が20年のアメリカ大統領選挙を取材する際、トランプ自身もおもしろいが、トランプの支持者はそれ以上に興味深い、と考えたように、斎藤応援団も十分に取材の対象になる、と思った。
トランプ信者と瓜二つ
2週間強という短い選挙戦の間、ネットで“真実”に気づき、斎藤元彦を応援するようになった人が、坂道を転がり落ちる雪だるまのように急増した。当初、数十人しか集まらなかった街頭演説の聴衆は、投票日前日までには軽く1000人を超えるまでに膨らんだ。
今回の勝因は、「斎藤vs.既得権益」という構図を作り上げ、“巨悪”に戦いを挑む孤独な男の復活劇という物語を作り上げたことにあった。斎藤が“悲劇のヒーロー”であるという言説がSNS上で拡散されたことで、多くの人の心を揺さぶり、鷲摑みにした。
斎藤は街頭演説で、「たった1人で始めた選挙戦だったんです」と語った。「最初に駅立ちをしたときは、本当に怖かったんです。石を投げられるんじゃないか、殴られるんじゃないか、と思っていました。県議会からも、職員組合からも、マスコミからも、副知事からも辞めろ、辞めろ辞めろのオンパレードでした。しかし、そんな声には絶対に負けるわけにはいかないんです。県政改革を止めるわけにはいかないんです」と、繰り返し語った。
最終日の街頭演説には、斎藤が話をする間、ハンカチで何度も目頭を押さえながら聞き入っていた初老の女性がいた。私の視線は、涙を流しながら演説に聞き入るその女性に釘付けとなった。