今回の県知事選挙によって兵庫県が、阪神大震災以来といわれる大きな注目を集めるようになった背景には、《NHKから国民を守る党》の党首である立花孝志が、斎藤元彦を応援するために知事選に立候補したことがあった。

 立花は、斎藤元彦の街頭演説の前後について回り、斎藤はパワハラしていない、元県民局長の死亡は自らの醜聞が暴かれるのを苦にした結果である、などの真偽不明な言説を繰り返し、さらにネット上で拡散することで斎藤の当選を後押しした。

 加古川市に住む高見充(52)はこう話した。

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「立花さんのユーチューブを見て、テレビがウソをついていたことが分かりました。自分がどれだけ洗脳されていたかに気付いたんです。立花さんが立候補していなかったら、稲村和美さんに入れていました。立花さんは5~6年前からずっとフォローしていて、100%信用しています」

 そう答えたのは高見1人にとどまらなかった。選挙期間中に取材した人で、立花孝志の発信する情報をまったく知らないと答えたのは、1人だけだった。大多数の斎藤支持者は、立花の撒き散らす無責任な言動の中に“真実”を見つけ出し、斎藤を応援したのだ。

 けれども、選挙戦が終わると、立花孝志は、「斎藤さんはパワハラしていました」と前言を翻えし、元県民局長のプライベートな問題の核心部分についても、話を二転三転させた。

 そんな立花孝志と斎藤元彦が二人羽織のような選挙を行ったことで、日本にも“トランプ現象”が起こりつつあるのを目の当たりにした。

 投開票日の午後8時、まさかの“ゼロ打ち”で、メディアが斎藤元彦の当選確実を伝えると、事務所前に集まった数百人の応援団からは大きな歓声と斎藤コールが沸き起こった。

 斎藤コールの間には、「マスコミの負けや!」、「(マスコミは斎藤に)謝れ!」という声も挟まった。

 斎藤元彦が勝利宣言のために事務所前に姿を現すと、多くの支持者がスマートフォンを高く掲げ、斎藤の勇姿を記録しようとした。その様子は、10日ほど前にトランプが当選を果たした夜のトランプ信者の姿と瓜二つだった。

支持者集会で演説するドナルド・トランプと支持者たち 著者撮影

 ウソと虚飾にまみれた兵庫県知事選は、まさかの逆転劇で幕を閉じ、斎藤元彦が再選を果たした。

 4年前には、ともすれば対岸の火事かとも思えたトランプ現象が、日本に上陸した日として、さらには日本の政治の分水嶺となった選挙戦として長く記憶されることになるかもしれない。そう思いながら、私は神戸での取材を終えた。