「会社を立て直してほしい」と打診
「たまたま仲のよかった広告代理店の知人が、オリエント工業の先代社長と親交があり、昨年8月ころから間接的に認識してもらっている関係ではあったんです。で、オリエント工業閉業のニュースを受け、ある意味で日本の伝統芸能が失くなる危機じゃないか……とショックを受けていたところ、先代社長のほうから『一度お会いしたい』と。その後、9月初旬に直接お会いし、『本当はこれまで突き詰めて開発してきたオリエント工業の技術をここで終わらせたくない。オリエントのドールの魅力を海外に伝え、会社を立て直してほしい』と打診されました」
前社長の思いに、岡本氏はどう答えたのか。
「もちろん謹んでお受けさせていただきました。夢だったオリエント工業とのご縁を、まさか会社ごと受け継ぐという形で叶えられるなんて、僕の人生でももうないくらい幸運なことだと思いましたね。ただ、オリエント工業には積年の赤字という大きな課題もある。今後は僕の培ってきたノウハウを活かして海外への販売ルートを増やし、着実に業績を伸ばさなければいけないという責任も感じています。
先代社長と交わした“2つの約束”
ただ、先代社長とは『現在いる技術者たちの雇用』と『ドールのクオリティを絶対に下げないこと』の2つは契約書を交わして約束している。そこを守りながら、古参ファンの方にも安心してついてきてもらえて、かつ新規ユーザーも増やせる取り組みも必要だと感じています」
これらの目標に向け、岡本氏は残留する技術者からの信頼を得ることを第一に掲げている。
「技術者からしたら、ラブドールのつくり方のひとつもわからない新参者が入ってきたわけですから、不安も大きいはず。そこで、『最初のうちの給料はこれまでの据え置き、3年以内には1.5倍に、5年以内には2倍にする』という宣言をさせてもらいました。とはいえ、現状では赤字なので、実質僕は無給です。社員の給料はポケットマネーから出しているのですが……。この目標を有言実行して、お互いに尊敬しあえる関係になっていきたい。
同時に、ファンに向けた商品の開発も進めていきたい。ここ数年は新モデルが出せていなかったり、高齢のファンからは『ドールが重くて(1体30kg前後)、抱っこが難しくなってきた』との声もあります。そうした声に寄り添いつつ、今後もオリエント工業を盛り上げていきます」
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一連の騒動をドールファンたちはどう受け止めているのか。16年前にオリエント工業でドールを買って以来、先代社長とも親交が深かったという男性に話を聞いた。

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