「息ができない」数ヶ月後に突然起きた“体の異変”
しかし数ヶ月後、通学中の日比谷線で扉が閉まった瞬間、突然体に異変が起こった。
息が、できない。
あの日とは違い、車内には何の異変もない。何が起こったのか自分でも分からず、誰にも相談できなかった。
「私は平気」
そう繰り返していた自分が、本当はずっと苦しかったんだと思い知らされた。
PTSD・心的外傷後ストレス障害という言葉を知ったのは、それから何年も経ってからだった。
16歳の少女は母に…子どもに伝えたい想い
あの日から30年が経つが、今もまだどこかで強がっている自分がいると感じる。
5年ほど前、テレビで遺族の女性がインタビューを受けている姿を見た。その涙に、胸が押しつぶされた。あの日、私が電車を止められていたら、と。
何度も考えた。私には、事件を語る資格があるのだろうか。「本当はつらかった」と打ち明けてもいいのだろうか。
ただ一つ確かに言えるのは、あの日から背負い続けた静かな痛みは、今も心の奥底に染みついているということだ。
あの日、16歳だった私は、母になった。子どもにはこう伝えたい。
「自分の感覚を信じなさい。迷ったときは、自分で決断しなさい。そして、その選択が未来を変えられる力を持っていることを、忘れないで」
記者にそこまで語ると、遠くを見やりながら、ぽつりとつぶやいた。
「今日まであの頃の自分の痛みとちゃんと向き合ったことがなかったかもしれない」
過去の自分を認めて、やっと今を生きていける――
30年を経てようやく心の整理がついてきたと語る。視線の先にはきっと、毅然と振る舞う16歳の少女がいる。
《敬称略》
