高知ロケで撮りたかった「だるま太陽」

 観客席からは、ヒロインが高知で「だるま太陽(太陽が水平線上でだるまのような形に見える蜃気楼現象)」を観たいと思っていたことについて質問が出た。

「脚本を書く最初の段階からだるま太陽を考えていました。これは言ってみれば蜃気楼で、実際には存在していないわけです。主人公のミュージシャンを目指す男の子が曲を途中まで作曲したけど、大人になってもまだ完成していない。蜃気楼の太陽を通して、ある意味では主人公の信念、心の中の太陽を描こうと思っていたわけです。また男女が高校時代に出会ったときに手にしたCDのジャケットには太陽が描かれています。太陽は、ふたりにとってもシンボリックなものであるのです」

セシリア・チョイ(左)とイーキン・チェン

 だるま太陽をカメラに収めたいと行った高知でのロケは、準備を含めて9日間、実際の撮影は5日間だった。

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「高知県の観光局の方には大変お世話になり、この場を借りて御礼申し上げます。毎日毎日すごくいい天気でしたが、なぜか(海辺での散骨のシーンの)撮影の日になったら曇りになってしまいました(笑)。神様はいじわるですね。あるいはよくしてくれているのかもしれない。曇り空の撮影になったことも、実は登場人物の気持ちによく合っていました。世の中には完璧なものはありません。なんで世の中は不公平なのか、理由もよくわからない。そういう気持ちを抱くときに何ができるでしょうか。じっと曇り空の夕日を見上げる、その時に2人の気持ちが通じ合っている。そういうことを考えながらこのシーンを描いたのです」

イーキン・チェン(左)とセシリア・チョイ

(作品紹介)
夏の日、音楽を通して出会ったふたりの恋は永遠に続くと信じていた。しかし、別々の人生を歩み偶然再会した彼らには過酷な運命が待っていた。かつての恋人マンフィン(セシリア・チョイ)の死に打ちひしがれるミュージシャン、センワー(イーキン・チェン)のもとに、恋人の娘だという少女(ナタリー・スー)が訪ねてくる。マンフィンの遺骨を日本の高知で散骨したいので一緒に行ってほしい、というのだ。しかし彼女にはある秘密があったーー。時空を超えた恋物語の始まりは二十数年前、センワー(イアン・チャン)とマンフィン(ナタリー・スー)が高校生のときだった。

 

監督・脚本:ジル・リョン/出演:イーキン・チェン、ナタリー・スー、イアン・チャン、セシリア・チョイ/2024年/香港/104分/公開未定