効率を愛する時代のなかで、アナログな過去に共鳴する者たちがいる。タイパもコスパもかなぐり捨てて、車との対話にこだわるオーナーたちの素顔とは?

 今回は「Nostalgic 2days 2025」の出展者から、1964年式のホンダ・S500に乗るワタナベさんをご紹介。

50年以上前に抹消登録されたS500を蘇らせたワタナベさん

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51年ぶりの公道復帰、込み上げてきた涙

 この車はS500といって、ホンダが初めて発売した普通乗用車なんです。私自身、以前から色々と古い車には乗ってきたのですが、ホンダの普通車には乗ったことがなくて。それで、どうせ買うならファーストモデルにしようと、S500を探したんですね。

 この車両は1973年に抹消登録されていて、そのまま30年近く眠っていたんですよ。それを私の前のオーナーさんが引き取り、2000年ごろから専門の業者さんに出して、内外装をレストアしていって。

抹消登録から実に51年の時を経て公道に蘇ったS500

 私がこのS500を引き継いだのは、2010年のことでした。当時はまだナンバーを切ってある状態だったので、そこから10年以上かけて、同じ業者さんに機関関係を仕上げてもらったんですね。

非常にコンパクトな2シーターのオープンモデル

 それでとうとう、去年の11月に車検を通したんですよ。なかなか見ない車ですし、車検場では検査員の方々も集まってきてくれて、時間をかけて丁寧に検査してくれましたね。

 抹消登録から数えると51年ぶりの公道復帰ですから、私としても感慨深く、帰りの車内では思わずホロッときてしまいました。前のオーナーさんも含めて25年ほどかけて、サビだらけの状態からここまで仕上げてもらったわけですから。

赤いレザーシートとウッドステアリングがなんともエレガント

 この車両はまだ慣らし運転といった感じですので、普段の足にはSA22Cという型のRX-7を使っています。そちらもだいぶ古いモデルですが、買い物から引っ越しまで、何にでも使っていますね。

 SAにはもう長いこと乗っていますけど、メーカーのパーツ供給も終わってしまっていますし、ネットで探すと驚くような値段のものが多くて。正直、しんどいと思うこともありますよ。でも、これがないと生活が回らないので、どうにか手を入れて乗っているんですよね。

ヘッドライトやワイパーなど電気系統のスイッチ

 そうやって手間がかかる面もありますが、不思議と「今の車に乗ろう」とは思わないんです。レンタカーや実家の車に乗ると、「なんて楽なんだ」とは思うのですが……。それでも「欲しい」とは違うんですよね。

 よくメディアで旧車に乗っている芸能人の方を見ると、他人事のように「なんでわざわざ古い車に乗るんだろう」なんて考えてしまうんですけどね。

基本的に車の趣味はプライベートで楽しんでいるが、コロナ禍にRX-7で通勤する機会があり、職場の車好きを驚かせた

 ただ私自身も、ずっと当たり前に古い車に乗ってきて、あえてその理由を聞かれると……。言葉にするのは難しいですが、やっぱりどこかで「違いを楽しみたい」って気持ちがあるのかもしれません。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。