朝日新聞をいくらめくっても見つからない記事
では夏の高校野球主催の朝日新聞ではどれだけ大きく扱われているのか。
東京版は「日大三サヨナラアーチ V」と「日大鶴ケ丘 夢へあと一歩」。でかでかと2ページを使ってこの決勝を報じている。
敗者・勝又投手を大きく扱った「『打倒 日大三』渾身の投球」というコラムもあった。
《小学生だった2011年、西東京大会で日大三と日大鶴ケ丘の準決勝を観戦。その時に負けた日大鶴ケ丘で日大三を倒したいと進学した。》
さすが朝日、入念な取材力である。高校野球のドラマを感じさせる。試合後、勝又は日大三の選手に声をかけられたと書く。
《「ナイスピッチ」。これに対し勝又は返した。「ありがとう」。そして「頼むぞ」。》
もう、高校野球ファンなら涙、涙のエピソードである。感動をありがとう! しかし……。
記事はこれで終わっているのだ。「勝又投手、熱中症」のことは書かれていないのである。
いや、それだけじゃない。2ページにわたって大々的に報じられたこの決勝戦の朝日の紙面をすべて探しても「勝又投手、熱中症」や「救急搬送」は一切書かれていないのである。
これにはびっくりした。何度も何度もこの日の朝日新聞を隅から隅までチェックしたがやはり一言も触れていない。
主催だから美談で記事を埋め尽くしたい気持ちはわかるが
あるのはその下の、
「『壮絶な試合』両校たたえる 閉会式で都高野連会長」という記事や、「ご協力に感謝します」という東京都高野連と朝日新聞社連名の感謝のことば。
そこでは《猛烈な暑さが続く中での大会でしたが、各チームとも温かい声援を励みに、激戦である東京の大会にふさわしい好プレー、好試合を見せてくれました。》
なんとも優雅な総括にみえる。
それはいくらなんでも、それはいくらなんでも……。思わずあの役人のように叫びたくなった。
主催だから美談で記事を埋め尽くしたい気持ちはわかるが、事実は報じなければダメだと思う。
ちなみに朝日は同じ日にスポーツ面で「観戦 熱中症対策入念に」という記事を載せている。
「体調管理・水分補給・日差し対策」など、8月5日から始まる甲子園大会に行く観客に気を使った内容なのだが、肝心の高校球児が決勝後に熱中症で搬送されていることを一行も報じないことを考えると、何とも白ける。
朝日がこういう態度でいると、高校野球に愛のない人たちが「そんなものやめちまえ」とますます言ってくるに決まってるのである。球児のためにも痛い部分も報じなければダメだ。そこからしか改善は生まれない。
いよいよ夏の甲子園・第100回大会が始まるが、選手は自衛手段を考えてほしい。参考になる新聞記事を紹介しよう。
「熱中症『もうダメ』と声上げよう」(7月27日)
《熱中症の危険が高まっています。この記事は、主に中高の運動部員のみなさんに読んでもらいたいものです。》
とはじまるこの記事は、
《「それは無理」と感じた時、「もうダメだ」と体に異変を感じた時、仲間の様子がおかしい時、自分や仲間を守るために、声を上げましょう。とても勇気がいることです。でも、みなさんの方が正しい場合がきっとあります。》
と締められている。
これは朝日新聞の記者が書いたコラムである。
甲子園に出場するチームはぜひこの記事をベンチに貼ってほしい。
無事故と健闘を祈る。