遺産目当てで四人の高齢男性を毒殺したとされ、昨年十一月に京都地裁で死刑判決を受け控訴中の筧千佐子被告(71歳)。映画『後妻業の女』を地で行く女に迫った力作だ。
二〇一三年暮れに疑惑が浮上した直後から追う著者は、裁判傍聴のみならず同被告と京都拘置所での接見や手紙のやり取りを続けた。傍聴した評者には弁護側が主張する認知症は芝居には見えなかったが、作品からは「芝居だったか」の感も抱く。「人に金を貸した」などの発言も著者は裏付け取材で嘘と突き止める。何度も嘘をつかれるが強くは追及しない。機嫌を損ねれば接見は切れる。同じ北九州出身で同被告に接近できた著者は、無機質な作業の如くに人を殺せる目前の女に恐怖を感じながらも明るい会話に努めて本音を探る。検察が起訴を断念した複数のケースでも「殺(あや)めた」の言葉も引き出す。極め付きは「××さんはある意味、幸せやったと思うで。だって、独り身で寂しいところに自分より若い女が現れて、身の回りのことあれこれ世話してくれて、本人は自分が殺されたいうんも知らんまま、あの世に行ったわけやからな」。言葉もない。
なんと彼女はあの世に送った男たちと同様、二十歳も年下の著者に「早く会いたい」などと「女」として秋波を送った。その一方、被害者への謝罪の言葉はゼロ。著者は「自分がどうあるかだけが重大関心事で、そのために他者がどうなろうと関心の埒外」と感じ、後妻業の「業」は彼女にとって仕事を意味する「ぎょう」ではなく彼女の心に棲みついた「ごう」だと断じる。福岡県有数の進学校に通ったお喋り女がなぜ平然と連続殺人を犯せたのか。初婚相手の本家からの差別、投機に失敗しての三億円もの借金……、どれも決定打ではない。悩む著者は、千佐子被告に対して専門的な認知症テストやキットを使う性格検査テストも試みた。警官立ち合いの接見の場でそんなことをする大胆発想にも脱帽だ。
おのいっこう/1966年、福岡県生まれ。雑誌編集者・雑誌記者を経てフリーに。北九州監禁殺人事件、アフガニスタン内戦、東日本大震災から、風俗嬢インタビューまでを取材、執筆。著書に『殺人犯との対話』など。
あわのまさお/1956年生まれ。ジャーナリスト。共同通信記者を経て、フリーに。著書に『検察に、殺される』『ルポ 原発難民』など。