1ページ目から読む
4/4ページ目

武蔵神童は「無駄」「失敗」で世界を変えていけるか

 一方、永田町界わいでは、自らの政治理念が揺らいでしまう武蔵神童の衆議院議員が2人いる。

 井出庸生(1996年卒)は東京大教育学部からNHKを経て政界入りした。祖父は元内閣官房長官。井手の所属政党はめまぐるしく変わった。みんなの党(2012年)→結いの党(2013年)→維新の党(2014年)→民進党(2016年)→希望の党(2017年)→無所属(2018年)。

 その後、希望の党は民進党が合流して国民民主党を作ったが、井出は同党に加わらなかった。現在は無所属。

ADVERTISEMENT

「無所属という選択が正しいのかどうかは、今後の活動次第、ここからがまたスタートだと考えています」(井出のウェブサイト)。 

 松本剛明(1978年卒)は、東京大学法学部、日本興業銀行を経て政界入りする。父は元防衛庁長官、高祖父は伊藤博文というキラキラの政治家一族だ。

©iStock.com

 2000年、民主党から初当選する。2011年には民主党政権で外務大臣をつとめた。

 2015年、民主党を離党する。「わたし自身が描く政権、考える政権への道と民主党が進む道はもう重ならない」という理由からだ。

 2017年、自民党から立候補して当選。麻生派に入ってしまった。自民党2年生である。

 2人はブレまくった政治家人生を送ることになる。もっとも当人からすれば、ブレたのは政党ということだろう。

 武蔵神童は政治の世界が好きである。政治家にならなくて活動してきた人の中に、ノーベル平和賞受賞で脚光を浴びたICAN国際運営委員の川崎哲(1987年卒)、年越し派遣村の湯浅誠(1988年卒)がいる。2人とも東京大法学部出身だが、いわゆるエリート街道を走ることはなかった。

御三家 麻布・開成との違い

 武蔵神童は政官学の世界ではなにかと注目される。お騒がせ者も多い。御三家の麻布、開成に比べると永田町、霞ヶ関で存在感を示してくれている。

 武蔵高校の教育方針にこんな一節がある。

「自主的な活動には無駄や失敗がつきものです。自分でよく考え、自分の責任で行動した結果の無駄や失敗は、本人の財産になります。失敗しないのが良い生徒ではなく、自分の財産となるような失敗を、数多く経験する生徒が良い生徒です。このような生徒が武蔵を、そして世界を変えていけると信じています」(同校ウェブサイト)

 武蔵神童は「無駄」「失敗」で世界を変えていけるか。文科大臣、早大総長、東大総長、首相秘書官、外務大臣、全学連委員長から、そのお手並みを拝見したい。

(敬称略)

神童は大人になってどうなったのか

小林 哲夫(著)

太田出版
2017年8月17日 発売

購入する