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混沌とした将来に対して、親が子供に出来ること<br />

混沌とした将来に対して、親が子供に出来ること

子供を海外留学させたい親が、今から考えるべきこと(3)

2017/01/27
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 2年ほど前に参加したダボス会議で、世界各国の教育政策に携わったある著名な方とお話しをしていた時に、「40年ギャップ」という概念を教えてもらいました。

 教育現場でカリキュラムを作成している専門家は、20年後の世界がどうなるか考えて作ります。一方で、その教育を受ける子どもの親はとかく、20年前に自分が受けた教育を良しとして子どもの進路を考える。そこに40年の隔たりがある。それが「40年ギャップ」です。特に日本では今もその傾向が強いと思います。

 ISAKの7割の生徒は海外からやってきます。その中には、出身国で有数の財閥の御子女も複数いらっしゃいます。恐らくその気になれば世界中に選択肢が広がっているであろうご両親でも、「子どもが日本の新設校に行きたいと言った時は、本当にびっくりしました。でも環境とカリキュラムをみて、自分が受けた教育とは違うけれど、これからはISAKのような教育が必要と思うから入学させた」とはっきりおっしゃるんです。

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 現代は、親が教育を受けた20年前より拍車をかけて、親は子どもが生きる社会を想像できなくなっています。私自身、自分の子どもが20年後にどんな社会を生きるか全くわかりません。

 いまは必要と言われている英語ですら、技術が進んで自動翻訳の精度が高まればいらなくなるかもしれないんです。

 唯一わかるのは、もの凄く混沌とした社会になるだろうということ。その中で、いろいろな人とぶつかり合いながら、そして時代の大きな変化の荒波の中、自ら答えを見つけていかなくてはいけないということです。

 

 親世代は、子どもの将来に対する答えを持っていないし、尋ねるべき問すらもわかっていないということを強烈に自覚する必要があると思います。これからの時代を生きる人たちは、今までのように降りかかってきた問題に対処するだけではなく「何が問なのか」を自分で見出さないといけない。自分がこれだと思ったことを、信念を持って突き進んでいくことでしか、道は切り開かれない時代になっていくんです。

 だからこそ私は、「多様性を活かす力」「問を立てる力」「困難に挑む力」の3つの力が今まで以上に大事になってくると思っています。

 2014年にISAKを開校した時に、私はAI(人工知能)の発達がこれほど早いとは思いませんでしたが、2017年のダボス会議でも第4次産業革命における「人間とは何か」が大きなトピックになっているように、今後はすべての産業で人とAIがどう共存するかに関心が高まっています。

 そんな時代に生きる子どもたちのための、教育のあり方も、根本的に問い直されています。

 ISAKは今年、初めての卒業生を出しますが、私たちは彼らが何名、著名大学に行ったかといったことに一喜一憂するつもりはありません。大切なのは、彼らが本当にやりたいことに即した進路を選べたか。そして真価が問われるのは、10年、20年後に卒業生たちがどんなことをやっているかなんです。様々な分野で変革を起こすチェンジメーカーを輩出できるよう、ISAKのカリキュラムをブラッシュアップすることが中長期的に考える一番の課題です。

 

 2020年に大学入試センター試験が廃止され、新しい大学入試になろうとしています。

 当然のことながら大学入試が変わると、初等中等教育も変わらざるを得ない。画一的だった大学入試が変わることで、偏差値で横並びだった高校や中学にも個性が出て行くと期待しています。逆に急速な少子化の中、個性を出せない学校は生き残れなくなるかもしれません。

 教育再生実行会議のメンバーを拝命していた時に、特別支援学校のことが話題になりました。日本はADHD(注意欠陥・多動性障害)やアスペルガー症候群、ディスレクシア(難読症)などの生徒をみんな特別支援の対象にして1人の先生が見ていることが多いですが、どうアシストすればその子が伸びるかはその子の特長によって全然違います。

 海外では、チャーチルやマドンナやトム・クルーズなど、発達障害と呼ばれる症状があっても抜群の才能を発揮して活躍する人は沢山います。異能異才の宝庫ともいえる集団を活躍させられないのは、大げさな表現をすれば国家の損失とも言えるのではないでしょうか。

 少子高齢化を突き進む日本において、画一的な日本人が集まって問題を解決しようとしても、なかなか解決策は見つけられません。日本は異質なものを排除する力が本当に強い国ですが、親だからこそ、みんなと同じことを強制するのではなく、子供の個性や特長と向き合い、子どもがのびのびと輝ける環境を見つけてあげて欲しいと思います。

 子どもはいきいきとしていることが何より大事です。私自身、子育ては試行錯誤の連続ですが、親は子どもの個性や家庭環境に照らして、ベストな選択肢を考えてあげることしか出来ないと思います。

構成=小林純子(フリーライター)

プロフィール

小林りん(ISAK代表理事)

1990年 東京学芸大学附属高等学校入学

1991年 同校を中退、カナダのピアソン・カレッジに入学

1993年 国際バカロレアディプロマ資格取得

1998年 東京大学経済学部卒業

1998年 モルガン・スタンレー日本法人勤務

2000年 インターネット系ベンチャー企業ラクーン取締役就任

2003年 国際協力銀行(JBIC)勤務

2005年 スタンフォード大学国際教育政策学修士号取得

2006年 国連児童基金(UNICEF)プログラムオフィサーとしてフィリピンで勤務

2008年 インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)設立準備財団を発足

2014年 インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢を開校

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